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あたしたちを緊張した空気が包む。斗真の左手が、あたしの手を引いて走り出そうか悩んでいる。
でもたぶん、悠星は走るの速い。斗真が引っ張ってくれても、あたしではきっと追いつかれてしまう。
逃げられなかったもの。逃げたかったけれど、だめだったんだもの……
足がすくむ。
悠星の前で、あたしはまっすぐ立っていることすら、むずかしい――
「やっぱり一花だ」
悠星が意地悪そうに、口の端を歪めて笑った。
「黙っておれに支配されてりゃいいんだ。運よく生き延びた者同士、なに、心配するこたぁない」
壊滅した町。あたしの町。
もう一人のあたし。あたし自身。
前までのあたしは、もういない。
悠星に手をつかまれかけたけど、意を決して引っ込めた。彼の眉がぴくりと怒りを露にする。あたしの心臓が怯えて跳ねたけれど、それは一度かぎり、足を踏ん張って耐える。
今のあたしには、斗真がいる。斗真の前で、悠星に捉えられているわけにはいかない。そんな自分はいらない。