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「悠星……?」
口をついて出たのは、誰の名前だったろうか。けれど、たしかに知っている。頭の先から染み込むように、記憶が身体と融合する。
麻井悠星。近所に住んでいる男の子だ。幼なじみというほどでもないけれど、昔からそれなりに知っている子。
ああ、でもなんだろう、しっくりくるようでこない妙な違和感。
でもそれは相手も同じだったらしく、眼前の塵を払いながらこちらに向かってくる彼も難しい顔をしていた。
「一花みたいだな。けど、へんな空気してる」
「悠星こそ、こんなところで何してるの」
「探し物。ひとつは見つかったけど……」
そう言って彼は、あたしの隣の斗真を見て片方の眉を動かした。なんだか不快そう……その理由に思い至るには、何かが邪魔をしている。吐き気が胃でなく脳みそを襲ったらこんな感じなのかな、そんなモヤモヤムカムカがこめかみを圧迫する。
「一花に兄貴なんていたっけ。いとこか?」
麻井悠星は、斗真に視線を据えたまま、不機嫌な声で尋ねてきた。つい正直に答えそうになったあたしを、斗真が制す。
――そうだった、ここは、あたしが元いた世界とは違うんだった。この麻井悠星が知っているのは、こちらの世界の一花のはず。