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「なにボーッとしてるんだ、いくぞ」
パーカーの袖に片腕を通しながら、斗真は私をせっついた。
「早く一花の世界に戻ろう」
言うや否や、彼は私の手を引いて部屋を出た。階段を降りる頃には、濡れた髪以外は身支度は完璧で、たったそれだけのことなのに斗真がものすごく頼りがいがあるように思える。
私もがんばらなきゃ。脱いだ服と靴をまとめた袋を抱える手にぎゅっと力を込めた。
ワンピースに合わせてもおかしくなさそうなスニーカーを拝借し、玄関から外に出る。小雨はじき上がりそうだ。
斗真のお母さんに鉢合わせしないよう、路地裏を選んで走った。上下に忙しく動くパーカーのフードを斜め後ろから見上げ、ふと申し訳ない気分になる。お母さん……ご両親は、息子たちの行方を心配していたに違いないから。由真ちゃんが正真正銘、消えてしまったなんて……考えつくはずもない。
つないだ手の感触を確認する。確かに、そこに存在してる。――消えない。絶対、消えないで。消えさせなんか、しない!
ふいにあふれかけた涙をこらえ、下唇を噛みしめた。胸の奥が熱くなって、心臓がどきどきした。鼓動が、腕をつたって斗真の手に届きそうだ。