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反射的に体を起こして、後退りした。本当は立ち上がって逃げたかったけど、とても足が動きそうになかったのだ。
斗真は両膝で立ち、顔を空に仰向けて雨を受けていた。そして、地面に両手をつき、砂利を握りしめながら苦しそうに長い呼吸をした。直感的に「斗真」が戻ってきた気がして、そろそろと近寄り、その背に手を当ててみる。
「……、一花。すまない」
聞こえてきた声音にホッとする。でも、
「もうひとりの斗真に会った……?」
あたしの問いに、彼は顎を引いた。青ざめただろうあたしに、斗真は穏やかに話しかける。
「心配するな。俺は、絶対に消えたりなんかしない」
「本当に?」
「ああ。それにできれば、もうひとりの自分に、自分を明け渡しはしないつもりだ」
もうひとりには悪いが、と小さく付け足して、斗真はふと押し黙る。