27
斗真じゃない人影が見えるたび、向きを変えて闇雲に駆けた。
地理なんてわからない。迷子の自覚はとっくにあったけれど、立ち止まるわけにはいかない。
普段から走る生活をしていないから、息が上がるのも早かった。
もうだめだ、足が上がらない……涙があふれてきて、雨も降りだして、とうとう足が止まった。
アスファルトにうずくまる。斗真がいない寂しさと、由真ちゃんを失った悲しみがすごい勢いで押し寄せてくる。
もういっそ、ここで命を奪われてもいいとさえ考えてしまう。でも。
「このまま会えないで終わるなんて、嫌だよ……!」
自分で驚くぐらい、雨音にも負けない大きな声で叫んだ。何度も斗真の名を呼んだ。
斗真が好き、会えないのは嫌、早くあたしを見つけて。
声を上げれば神様に届くとでも言うように、あたしはのどが枯れるまで泣き叫んだ。でも鍛えられていないのどはすぐに潰れてしまう。
叫ぶことも、立ち上がることもできなくなって。
あたしは、雨とアスファルトを跳ねるしぶきに打たれるがままになっていた。
「――ひとりでは絶対にだめだ、って言わなかったか?」
豪雨の合間に、やさしく咎める声が聞こえてくる。
「一花」
ゆっくりと、あたしの名前を呼ぶ。
「斗真……っ」
最後の力を振り絞って立ち上がったあたしを、同じくずぶ濡れの斗真が、すくうように抱きかかえた。
あたしは彼の首に腕を回してしがみつく。
「帰ろう、一花。由真は見つからなかった」
声に諦めが入り交じっていた。由真ちゃんに何事かが起こったことを、兄の勘で察しているのかもしれない。
ちゃんと話して聞かせなきゃ。斗真の妹の由真ちゃんは、最後までお兄ちゃんのことを気にかけていたよ、って。
あたし、こっちの世界で出会った由真ちゃんとは少ししか一緒にいれなくて、いまだによく彼女の気持ちがわからなかった。
兄さんが嫌いと言った由真ちゃん。なのに、一瞬だけ表に出てきたときに口にしたのは、ただひとりの兄を思う言葉。
嫌いなんて嘘で、本当は、誰にも渡したくないぐらいに大切だったんじゃない……?
仲良くなれようが、なれまいが、どちらの由真ちゃんにも消えないでほしかった。もしかしたら、こっちの世界にいるだろうもう一人のあたしは、こっちの由真ちゃんと気が合ってた可能性があるんだもの。
――。
もう一人の、あたし?