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ふたつの世界  作者: あくた咲希
陰と陽
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「ここの蔵書でもないし、何語かも不明。誰かが置いていったんじゃないかとしか言えないわ」

「そうですか……。お手間を取らせてすみませんでした」

 思えば偶然に見つけただけで、なんの思い入れがあるというわけじゃなかった。単に仕事を増やさせてしまっただけの結果に立つ瀬もない。

「持ち主が問い合せてくるまで保管することになるわね。もし読んでみるのだったら預けておくわ」

 司書さんでもわからないものを読めるとは思えなかったけれど、縁を感じないでもなく、預かることにした。

「それじゃあ、ゆっくりしていって」

「あの、昨日あたしと一緒だった男の人……見かけませんでしたか?」

「彼? 見てないわね」

 図書館で待ち合わせだなんてかわいらしい、と彼女は唇に指をあてて笑った。斗真を見かけたらここを教えてくれるそうだ。

 仮眠室ではまだ由真ちゃんがすぅすぅと眠っていた。

 壁に立てかけてあったパイプ椅子を慎重に広げて、ベッドのそばに置いた。腰を落ち着けて、ペーパーバックをひらく。

 正体不明の文字を眺めていて、ふと由真ちゃんを見ると、驚いたことに輪郭が二重にぶれていた。

「……、え?」

 目を瞬いたが、奇妙な残像は消えない。あたしの目がおかしいのではなく、実際にそうなっているのだ。

「由真ちゃん? 由真ちゃん!」

 肩をつかみ、ゆすった。本がぱたりと彼女の体に落ちる。

「――あ、兄さん……?」

 か細い声が、色を失った唇を震えさせる。

「兄さんはどこ?」

「……由真、ちゃん?」

 口調に違和感をおぼえて、あたしはベッドから離れた。

 由真ちゃんは兄の斗真を「兄さん」とは呼ばない。それにこんな、突き刺さるような声音――

「一花、あなた兄さんをどこへやったの?」

 これは、向こうの世界の由真ちゃんだ。上半身を起こし、さも憎そうにあたしを睨む。

「兄さんに何かあったら許さないわ」

 あたしは息を呑んだ。

 見ている前で、ぶれていた輪郭と輪郭とが合わさろうする。しかしまた大幅にぶれ、ぼやけてにじむ。

「……、わかった?」

 聞こえてきたのは、こっちの世界の由真ちゃんの声だ。あたしは詰めていた息を吐き、ふらふらとパイプ椅子に腰をおろした。

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