20
翌日、勉強不足をひしひしと感じながら二教科のテストが終わった。平均点は取れていますように、と願いながら帰途につくと、昨日のソフトクリーム屋さんの前で往来を眺めている――というより睨みつけている男の人を見つけた。
不良さんかと思いビクビクしながら通りすぎようとすると、おい、と刺々しい声で呼び止められた。
「佐倉一花か?」
フルネームで問われ、総毛立つ。
頷くこともできずに硬直していると、男の人はお店の近くに止めた車に親指を向ける。
「あの、知らない人の車には乗れません」
やっとのことで断ったあたしに、男の人は眉を吊り上げつつ笑い声を立てた。
「どこのお子様だよ。へー、確かに由真が好きそうなガキだな。素朴にかわいい顔してるし」
まさか、由真ちゃんのお兄さん――こっちの世界の、住吉斗真?
二人の斗真の雰囲気がかけ離れてすぎていて目眩がした。
今あたしを値踏みするように見ている彼はひょろっと背が高く、派手めな格好をしている。どことなく顔の造作は似ているのかもしれなかったけれど、生理的に受け付けない感じがして、あたしは一、二歩うしろにさがった。そのぶん距離を詰めてきた彼に腕をつかまれ、強引に車のほうへ引っ張られる。
「由真がなぁ、おまえに会いたいんだって言ってんだよ。きてくれるだろ? 親友なんだってな?」
恐い、としか思えなかった。こっちの世界の由真ちゃんは好きだけれど、この斗真は危険な匂いがする。
由真ちゃんが会いたいと言っているなら、まず携帯にメールなり電話なりあるんじゃないだろうか。
「あのっ、由真ちゃんに電話してみてもいいですか?」
必死に腕を振りほどいて、カバンの中の携帯を探った。着信は一件もない。彼女からのメールもない。
「こんな疑われるのも心外だがなぁ。さっさと電話しろよ」
制止されるかと思ったのに、余裕な態度を取られてかえって落ち着かない。アドレス帳を呼び出してコールする。呼び出し音が鳴るか鳴らないかで由真ちゃんが出る。
「もしもし? あの、お兄さんらしき人があたしを迎えにきてるんだけど」
電話の向こうで息を呑む気配がした。そして、
『……うん、由真が頼んだの。熱が出ちゃって、動けなくて』
弱々しい声が続いた。本当に具合が悪そうだ。教えてくれた車種と色は、今そこにある車に該当する。
「じゃあ、今から行くからね。待っててね」
携帯をカバンにしまうと、お兄さんが内側から助手席のドアをあけて急かした。
シートベルトを締めないうちに車は発進し、細い脇道をすれすれになりながら走行する。斗真と同じ誕生日なら十八歳で、免許は取ってまもないはず。
お兄さんに対する不安は拭い去られたわけじゃないので、さらに生きた心地がしない。
そして、いつまでたっても由真ちゃんの家に着かないのだ。
やがて海が見えてきて、少々怪しげな建物が並ぶ場所へやってきた。