15
足取り軽く、図書館へ向かった。月曜日は早めの四時閉館で、斗真との待ち合わせとちょうど一緒だ。
馴染みの司書さんと挨拶をかわし、お気に入りの場所で単語帳をひらいた。でも、大量の本に囲まれて単語帳というのももったいなくて、英語で書かれた本を物色する。短時間で読めるように、薄いのを選ぶ。やたら古ぼけたペーパーバックで、タイトルも著者名も掠れていて読めない。
席に戻ってページをめくっていると、英語にしては文章が妙で、文字もアルファベットかどうかすら怪しい。当然、読解不能だった。
返却本を棚に戻していた司書さんに、恥を忍んで尋ねてみる。
「これ、何語かわかりますか?」
「ここの棚にあったの? ……、うーん。バーコードもないし、妙だね」
彼女はひとしきり悩んだあと、調べてみるから、とその冊子を持ってカウンターの奥に引っ込んでしまった。ほかに仕事もあるだろうに余計な手間をかけさせてしまう、とオロオロしていると、
「明日までに調べておくから。それとも今いる?」
仕切りのカーテンをよけて顔を覗かせて、司書さんが声をかけてくれた。あたしは首を振り、お礼を言う。
今度は有名作家の本を選んで、椅子に腰をおろした。英文というだけで試験勉強をサボっているという罪悪感もなく、時間を潰すにはちょうどよかった。
そろそろ閉館時間というとき、トイレに用ができた。申し訳なく思いながら多目的トイレに入る。それでも退室するまで落ち着かず、向こうの世界へ行ってしまわないかと気が気でなかった。
司書さんに挨拶をしてから図書館をあとにする。
門のところに斗真の姿が見えて駆け寄ると、制服姿以外を初めて見た、と喜ばれた。彼は言葉にして褒めるようなことはしなかったけれど、目を細めて、やさしい顔をする。それだけであたしは幸せなのだから、わざわざ感想を求めはしない。
斗真はもともと体格がよいほうだったのにくわえ、首筋がますますがっちりしていて、力のいる仕事をしているのが見てとれた。でもお風呂に入ってさっぱりしてきたそうで、疲れはみじんも感じさせない。
お菓子の一つも持ってきていないことを後悔していたら、斗真が川沿いのお店に入ろうと提案した。お給料を日払いにしてもらったらしい。
奢ってくれると言うけれど、大事なお金をあたしに使わせてしまうのは申し訳なくて……。ためらうあたしに、斗真は困ったように頭をかく。