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昼食後にクッキーを焼こうと準備をしていると、母親に見咎められ、部屋に追い返された。
おとなしく試験勉強をする気にもなれずベッドにころがって、携帯のアドレス帳を確認する。赤外線で通信したデータには写真もくっついていた。上目遣いでアップの由真ちゃんが写っている。あたしのプロフィール設定は名前と番号だけの味気ないもので、申し訳ない気分になってしまう。
彼女のこと、斗真にどう話そう。
向こうの世界では二人のご両親が待っているはずだから、斗真は由真ちゃんを送り返すつもりだ。そうしたら今度は、こっちの世界での家族が悲しむことになる。
今の状態は――向こうからきた由真ちゃんが、およそ以前から存在していただろうこっちの世界の由真ちゃんになった。そういうことだろうか。だとすれば、元からいた由真ちゃんはどこへ行ったんだろう……?
やっぱり、斗真には今日のことをそのまま伝えたほうがよさそうだ。あたし一人では考えがまとまりそうにない。
家にいるより図書館にいたほうが落ち着く気がして、小花柄のチュニックとレギンスに着替えた。昨日、斗真と別れたあとに、なけなしのお小遣いをはたいて買った新しい服だ。恥ずかしながら、自分で服を買うのは初めてだった。安物だけど、高一のあたしが着るのだからじゅうぶんだと思う。
家を出るとき、母親に呼び止められた。案の定、この服をどうしたのかと訊かれた。
少し後ろめたい気持ちになりながらも、あたしは正直に話した。
すると、母親はバタバタとスリッパの音を立てて台所へ行き、お財布を手に戻ってきた。
「一花も自分で服を買うようになったのね。お小遣いの額を上げなきゃね」
心なしか嬉しそうなのは、あたしの気のせい?
怒られないでも小言の一つや二つは覚悟していたのに、拍子抜けして、遠慮するのも忘れて差し出されたお札を受け取ってしまった。
「高校生だものねぇ。ふふ。お母さんは応援してるからね」
「え、応援……?」
あたしが訊き返したときにはすでに、母親は居間に引っ込んでテレビをつけていた。昼のワイドショーは趣味に合わない、と普段あまりテレビを見ない人なのに、妙なこともあるものだ。聞こえてきたのはまさにワイドショーのタイトルコールで、二時になったのだとわかる。
「じゃあ行ってきます」
「はーい、気をつけて行ってらっしゃい」
母親の声に背中を押されるようにして、外へ出た。
なんとなく胸のあたりが、ほわぁ、とあたたかいことに気づく。思っていたより母娘の距離は近かったんだ、と嬉しくなる。あたし、少し構えすぎていたのかもしれない。