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引き戸を前に、あたしは立ちすくんだ。そんなに声はしないのだけど、大勢がいる気配がしたのだ。
はたして、食堂は活気に満ち溢れていた。一般家庭の台所ではなかった。天狼が「食堂」と称した理由がよくわかった。あまりお世話になったことはないけれどまるで学食のような、四人がけのテーブルが四つ、それが三列もあって、老若男女でひしめいていた。
賑やかなので一斉に注目されるということもなく、カウンターに近づくと、事情を聞いているらしい給仕のおばあちゃんが食事を用意してくれた。和風の朝定食はすばらしく美味しく、食べ終わる頃には周りの人たちと言葉を交わせるぐらいに場に馴染んでいた。近くに背中合わせでシリウスがいたけど、彼は気づかないフリでさっさっといってしまった。
「支度がすんだら大広間へと、大奥様が仰っていましたよ」
給仕のおばあちゃんに教えてもらい、少し身のすくむ思いがしたけれど、立ち止まっていても仕方がない。深呼吸をしてごちそうさまを言い、椿お姉さんの部屋に戻った。