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問う眼差しが少しきつく感じた。心なしか語調にトゲが生えた気がする。
「倒れてる由真ちゃんを見つけて、呼んできたの。運ばなきゃいけないと思って」
とっさについた嘘を、由真ちゃんは慎重そうに受け止めている。ぶつぶつと何事か口の中で呟いた。
もしかしたら向こうの世界のことを覚えているのかと思って、あたしは質問してみようと口をひらきかけた。でも、それより先に由真ちゃんの目から涙がこぼれる。
「変なことしてたわけじゃないよねぇ?」
震えた声でそんなことを訊かれ、あたしはすぐには意味を理解できずに首を傾げた。たっぷり十秒はかかって、「変なこと」の見当がついた。
「まっ、まだ何もっ。何も、したことない」
狼狽えるあたしに、由真ちゃんはたたみかけるように震えた声で詰問する。
「ほんとに? 付き合ってるのに何もしたことないの? 彼氏、一花ちゃんに何もしないの?」
「まだ、出会ってから数日しかたってないもの」
手をつなぐとか、抱きしめるとかはあったけど――とは、恥ずかしくて言えない。斗真の体温を思い出して頬が熱くなる。早くまた会いたくなる。
由真ちゃんは袖口で目元をぬぐい、ぶるぶると頭を振った。そして気を取り直したように、ぱっと笑う。
「汚れた発想してごめん。一花ちゃんってそんなタイプじゃないもんね。あー、でも、出会ってすぐに付き合いはじめたってことだよね? じゃあ由真のことは、親友にしてくれる?」
親友という言葉の響きに、心臓が跳ねた。由真ちゃんのあたしをうかがう目はまだ潤んでいる。これで断るなんて、ありえない。
頷いたあたしに、由真ちゃんは飛びつくように抱きついてきた。背の高さも体格も同じぐらいだから、あたしはよろめいて、ちょうど通りがかったおじさんにぶつかった。おじさんは迷惑そうにするでも怒るわけでもなく、笑いながら行ってしまう。
「一花ちゃん! 触られたりしなかった?」
由真ちゃんはあたしの腕にくっついて、背広の後ろ姿を睨んだ。こちらからぶつかっておいて疑うのもひどい話だなぁ、と思いつつ、大丈夫だよ、とたしなめる。
あたしの制服の背中をぱんぱんとはたきながら、由真ちゃんは低く唸った。もしかすると男の人が苦手なのかもしれない。あたしも得意なほうじゃないから、彼女の気持ちはわからないでもない。
昼の一時をまわる頃、今度はあたしの携帯が鳴った。自宅の母親からだ。帰りが遅いから心配したみたい。
先にあたしの家に着き、名残惜しそうにする由真ちゃんと携帯番号を交換して別れた。お昼を一緒にどうかと誘おうとしたところ、またお兄さんから着信があったのだ。
受け答えする彼女の語気が荒かったのが気にかかったけれど、気の利いた尋ね方がわからずにそのままになってしまった。
いくらか離れたところで、あたしを振り返った顔が心細そうに見えたのに……。