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静まり返っている。篝火がそここで爆ぜた音をさせているのが、よけいに耳に痛いほどの静けさをかもし出しているみたい。空は、一面の闇。月や星の気配はない。
あたしは、正面の家の裏手に連れていかれた。
「いま夜だから、こっちから」
天狼が口に人差し指を当てながら、細い廊下を歩いてゆく。シリウスはあたしの後ろをついてくる。
扉の先の部屋は集会場か宴会場のような広さで、煌煌とあかりが灯され、上座と思われる奥の一段高いところには大きな鏡と緑が飾られていた。
「待っていて。母でも呼んでくる」
ここでは普通のトーンで喋っても大丈夫そうだ。ほかの部屋とは離れているのだろう。
天狼は先ほどの廊下へ消えていった。残されたあたしとシリウスは、互いに意識しないようにか、そっぽを向き合っていた。
もう、夜中だろうか。部屋じゅうを見回しても時計はなく、窓のひとつもない。表面が磨かれた明るい色の木材が四方を取り囲んでおり、神聖な空気すら漂うようだった。ある種の気持ちのよさを感じて、床に寝そべりたい衝動に駆られる。一人きりだったらこっそり実行に移していたかもしれない。