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考えあぐねていてもだめだーーそう思ったあたしは携帯を取り出そうとして、何も持ち物がないことに今更ながら気づいた。家の鍵なんかも入ってるし……むしろあたし、バスローブ姿だった。かろうじて下半身用の下着はつけているけれど、無防備もいいところだ。二人の男子の前で……ううん、何も考えていなかったけれど、宏志さんの前でもこんな格好をしていたなんて。馬鹿じゃないの?
自分の姿を見下ろして押し黙ったあたしに、天狼が近づいてきて肩に手を置いた。
「ひとまず、うちにきたらいい。ごめんな、その……荷物とか」
気遣われると、よけいに顔に血が集まってくる。
「おい、シリウス……」
「んだよ、翔べばいいんだろ」
シリウスもやってきて、あたしの腕をつかむ。
びゅうっと風が巻き起こる。重い感じはしない。世界をつなぐ道を作るのではなく、ただ、距離を縮めるための力。今朝あたしが、斗真のところへ行こうと無意識のうちに使った力と同じ。
次の瞬間には、竹林に囲まれていた。ざわざわと笹が触れ合う音以外は静寂そのものだ。
そんな浮世離れした空気の中に、白い石塀に囲まれたお屋敷があった。表門のそばの通用門から入ると、ただのお屋敷というよりは村ひとつがすっぽりおさまったような、そんな景色が目に飛び込んでくる。陽の世界にあったような、世間とは隔離された場所なのだと一見して悟った。テレビの時代劇よりももっと古い時代の、例えるなら神社と門前町のような様相……。