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「一花、おまえは無極だけど、ふっつーの女の子だよな?」
そう問いかけてきたのはシリウス。
「ふつうでいたいよな?」
「えっと……、あの……?」
質問の意図するところをはかりかねて、あたしは口ごもる。
もちろん、世界をどうこうするなんて大それたことは考えてもいない。たしかに陽と陰のあたしがひとつに溶け合っている気はしているし、それが無極だと言われるのならそうなのだろう。ふたつの世界を往き来する道をつくる力も、どうやらある。斗真のことも何とかしたい。謎を解明するには、ふつうではいられない?
……いち女子高生だったあたしは、もういないのだ。
「しなきゃいけないことは、ある」
ずいぶん間を置いてから答えたあたしに、シリウスはわざとらしく驚いてみせた。
「しなきゃいけないこと? あの金髪男を助けなきゃって?」
「それもある。でも、助けたい人はほかにもいるの。助ける……って言ったら変かもしれないけど、元に戻したい人がいる」
「元に戻す? どういうこと」
「陽と陰が、ひとつになってしまった人を」
口にして、ハッとした。シリウスと天狼の顔色がさっと変わったのだ。