12
「もー、心配性なんだから。高校生をこども扱いしないでほしいよね?」
折りたたみの携帯をぱたんと閉じて、由真ちゃんはやけに明るい調子で同意を求めてきた。
「いつまでも妹は妹なのかな」
「あ……、お兄さんなの?」
聞けば年齢も、あたしの知る斗真と同じだった。これは、もう一人の斗真がいるということ? 単なる偶然の一致? その証拠に、金曜日の図書館で、この由真ちゃんは斗真を気にもとめなかった。
あたしはコーンをかじりながら、どう斗真に伝えようか悩んだ。妹にまるきり忘れられている事実を突きつけるのはしのびないし、別の同名の兄がいるなんて酷だと思う。その兄に会ってみようという話になるかもしれないし――あたしだってちょっと考えたけれど、なんだか怖くもある。
「一花ちゃんはお兄さんとか、きょうだいいるの?」
「ううん。あたしは一人っ子だから」
「じゃあ、親が干渉してくる?」
「うーん……。そうでもない、かな」
会話を広げるのが苦手なあたしに、由真ちゃんは嫌な顔ひとつしない。コーンの底がふやけて、あたしの指にたれたクリームをハンカチで拭いてくれる。
「今テストなんだよね? 終わったら遊ぼうねー」
おでこがくっつくくらい顔を近づけてくる。本当に目の前に彼女の目があるのだ。スキンシップがあたしには刺激が強すぎて、顔に体中の熱が集まる。
「かーわいいなぁ」
由真ちゃんがいたずらっぽく笑ったかと思うと、彼女の唇があたしに触れた。どこに触れたのかわからないぐらい一瞬のことだったけれど、それは確かにキスだった。
あたしのクラスではないけれど、女子だけのクラスではわりと見かける光景ではあった。もちろん、あたしには縁のない行為で、キス自体が初めてだったので――相手には悪いけれど、思いきり仰け反ってしまった。
「あーごめんっ、由真って我慢できない人だから」
そう言って由真ちゃんは屈託なく笑う。キス自体は悪いことではない……と思う。過剰反応してしまったことが恥ずかしくなる。
「そろそろ行こっか」
由真ちゃんがあたしの手を引いて立ち上がった。そのまま、帰り道をゆっくり歩く。斗真と手をつないでいるときとは少し違うリズムの鼓動に戸惑いながら、あたしは彼女に歩調を合わす。
図書館のそばを通るとき、由真ちゃんがふと思い出したように尋ねてきた。
「最初に会ったとき、男の人もいたよね。あの人、一花ちゃんの彼氏?」
「あっ、う。うん、そう。彼氏」
言い切ってしまった。もう彼氏彼女の間柄で間違いないはずなのに、宣言するのにひどく勇気がいるのはどうしてだろう。
由真ちゃんは、ふーん、と鼻を鳴らすと足を止めた。
「そっかー、彼氏だったのか。トイレで何してたの?」