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そうして、部屋にあたし一人になって、しばらくした頃のことだった。テレビも何もないはずなのに、突然、話し声がしたのだ。それも、あたしのすぐうしろで。
「なーにのんびりしてるんだろ」
「危機感ないのかね」
「さっさと連れていこ」
「男のほーは?」
「暴れられたらイヤだし」
「じゃ、一花だけな」
「おう」
名前を出されてとっさに身構えたものの、現れたのは二人、あたしと同じぐらいの年頃の少年だった。いともたやすく羽交い締めにされた。痛くはないけど、完全に動きを封じられてしまった。
「しっ」
ひとりが、あたしの鼻に人差し指を突きつけるようにして声を潜めて言う。
「ここにいたら政府のいいようにされちまう。おれたちは、おまえを助けにきたんだ」
「助けにって……」
「話はあと。おい」
「おう」
あたしを捕まえている少年が頷く気配がしたとたん、引っ張り上げるような押しつぶすような、空間をねじまげるような力を感じた。