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「ここ……は……?」
まばゆさに目を細めたあたしに、春日江さんが軽く頷く。
「便宜上『陰』と呼ばれている世界から、こちらへ迷い込んだ者たちを住まわせている」
地下であることをのぞけば、普通の町だった。人もいれば、車も走っている。猫もいる。明るいが時刻は夜らしく、花屋さんがシャッターを下ろしていたり、居酒屋が暖簾を出していたりしている。店舗が集まる区画の隣には住宅地があり、犬の散歩に出かけるお父さん、部活帰りの学生が出入りしている。一軒家ばかりが立ち並ぶ区画の向こうにアパート群があり、単身世帯はそちらに住まっているようだ。
「陰の人たちがみんな、ここにいるというわけではないですよね」
斗真みたいに、入れ替わって暮らしている場合もあるはずだけど……。
「受け入れ先がなかったり、なくなったりするケースに対応している」
春日江さんは、聞かれれば答えるといった様子だ。さして重要機密というわけでもないのだろうか。こんな地下街のこと、斗真たちは知っていたのかな……?