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リーダーさんは春日江という名前だった。しばらくあたしたちの世話係になるだろうから覚えておいてほしい、と。
やがて、ヘリコプターが降下をはじめた。一時間ぐらい乗っていたと思うけれど、実際のところはどうだろう。すでに辺りは暗い。空は真っ暗で、月も星もない。プロペラに邪魔されて見えないだけだろうか。
思いのほか、ふわっと着陸する。エンジンの稼動音がやむと、しんと耳が痛くなるような静けさだった。
建物も何もない、時折、風が吹き付けては渦巻くような、広々とした空き地といった具合である。明かりになるものは皆無。空も地面も一体化するような暗闇。
春日江さんがマイクに向かって話している。聞き取ろうと思えば聞き取れただろうけど、あたしにはもはや、そこまで集中できるほどの余力がなかった。
疲労なのか、眠気なのか……朦朧としてきたとき、足裏に微振動を感じた。まさかまた町が消えたのかとハッと顔を上げると、光の滝のような壁に四方を囲まれていた。黒一色の四角い空がすーっと小さくなってゆく。エレベーターなのだと気づく頃には、光が消え、かわりに町の明かりがあたしたちを出迎えていた。