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翌日、三教科のテストを終え、日直当番だったあたしは下校前に職員室へ寄った。すると私服の先客がいて、担任の先生と話をしているところだった。
後ろ姿から女の子だとわかる。聞こえてきた声に、あれ、と思った。
「ああ佐倉、日誌か。ありがとう」
あたしに気づいた先生が話しかけてきた。女の子が振り返る。
「――、由真ちゃん?」
「あ、金曜日に図書館で会った?」
たしかに彼女だったけれど、斗真の妹の由真ちゃんじゃなかった。柔和な目元でにこにこしていて、およそ向こうの世界であたしに冷たい視線を送っていた彼女とは別人だ。
「二学期から転入するんだ。知ってる人がいて由真、嬉しい」
日誌を抱えるあたしに飛びついてきて、ぴょんぴょん跳ねる。
「もう帰るんだよね? 一緒に帰ってもいい?」
こっちの由真ちゃんは人懐こいみたいだ。困惑して照れるあたしを楽しそうに見ている。
先生があたしの腕の中から日誌を抜き取ると、
「えーと、家の方向はたしか同じだったな? 住吉も歩きか」
「はいー、歩いて帰ります。それじゃ、また学生証受け取りにきますので」
由真ちゃんはハキハキと答えて、あたしの腕に腕をからめて校舎をあとにした。彼女は反応の鈍いあたしを面倒がるでもなく、とめどなく喋り、道すがらのソフトクリーム屋さんに立ち寄り、まるで昔馴染みみたいにあたしに接した。世の中にはこんな子もいるんだ、と思わず感動してしまう。
店先のカフェテーブルはあたたかい陽光に包まれていた。ここで友達とおやつを食べること、実はちょっと憧れてた。学校帰りに幾度となく目にした光景、その中に自分がいることが不思議に思える。
胸が打ち震えるような小さな幸せを噛み締めていると、由真ちゃんの携帯が鳴った。液晶画面を見下ろす顔が一瞬、さっと暗くなる。今度ははっきり相手の名前も聞き取れた。
「あ、斗真くん? 今ね、歩いて帰ってるから」
あたしは食べていたソフトクリームを落としそうになった。
その斗真は、あたしの知る斗真なんだろうか? 今はまだ、仕事中のはずだけれど。
短い通話の中にも、二人の親密な関係が見てとれた。どうも学校へは車で送ってきてもらったらしい。今からでも迎えにくるという彼を、笑いながらたしなめている由真ちゃん。
でも、どこか張り詰めた空気が漂っているのはなぜだろう。