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振り向こうにも、全身が固まって動けない。こういうシチュエーション、ドラマなんかではいやというほど見たことがある。恐怖が冷や汗となって、こめかみからすべり落ちた。
「賢明だ。心配するな、逮捕しようとか、そういうものではない」
「でも、抵抗したらそれなりのことされるんだろ?」
宏志さんはつとめて冷静に、背後の人たちに問いかけた。声から、最低三人はいる。全員、男。宏志さんだけなら逃げられるのかもしれないけど、あたしがいたら足手まといになるのは明白だ。
「仕方ないな。一花、捕まっとくか」
「そう……しますか」
道が作れなければ、ヒロさんみたいな協力者がいない限り、のたれ死ぬのがオチだろうし……。
「メシぐらい出してくれるとありがたいな」
あたしを元気付けようとしてか、宏志さんが冗談めかして言った。あたしたちは顔を見合わせてから、後ろを向く。
宏志さんよりも背の高い、詰襟の制服みたいなカチッとした衣装に身を包んだ三人組が、拳銃を腰のベルトに引っ掛けた。そして、リーダーとおぼしき少し年かさの一人が、左耳のイヤホンマイクに向かって指示を出す。
「確保、迎えをよこされたし」