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あたしが道を作れるようになるか、既成の道を見つけるかまで、付近を探索することにした。深く息を吸い込まないように気をつけながら、廃墟の町を歩く。形をとどめた建物や、大きな瓦礫でできた陰などに限って調べていたけれど、あっというまに日が暮れていった。
「暗くなったらどうしようか」
さすがに疲れた様子で宏志さんが呟く。
「野宿か……俺ならどこでも寝れるけどな。あっちの町にラブホのひとつでもありゃな」
「ラ……ブホですか?」
「ビデオ撮られてるかもしんねーけど、大体は人に会わないですむし」
「そ……そういうものですか……あ、でも。たしかお金が違うから、そもそもダメです」
疲弊のために慌てる余裕すらなく案を却下して、あたしは肩掛けのバッグの中をさぐった。お財布はある、でも、こちらの世界で使えるお金は持っていない。
かわりにチョコの小袋を見つけた。いつから入っていたのかわからないけれど、ちゃんと賞味期限内だ。宏志さんに勧めると、
「ああ俺は甘いもん無理な人。食っとけ食っとけ、腹減ってると道作れねーのかもしれないし」
「でも、朝ごはんも食べてないです。それでも道は作れたみたいですし……」
「どんな条件かさえわかればなあ」
しゃがみこんだ宏志さんの隣りにあたしもしゃがんで、チョコを一粒、口に含んだ。舌の上でとろけていく甘いかたまりに気が緩んだのか、急に空腹感が押し寄せてきた。胃がしぼられるような、きゅうっと音でもしそうな軽い痛みをみぞおちに感じた。
「あ……っ」
いけるかも。
ーーそう期待が膨らむと同時に、
「佐倉一花。ご同行願いたい」
背中に、何か堅いものを突きつけられた。