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「走らずに……どうしたって?」
突拍子もないことを口走ったあたしに、宏志さんが片方の肩をガクッと落とした。
「あー、でもあり得るのかも」
頭をわしわし掻き回し、眉を思い切りしかめている。信じがたいことではあるけれど、それ以外になさそうな、それはーー
「瞬間移動」
あたしたちは同時に言った。言って、妙に納得した。ふたつの世界を行き来することも、瞬間移動も、同類のことかもしれないじゃない!
色めき立つあたしを、宏志さんが冷静にたしなめる。
「一花がそういう能力を持ってるかもしれない、ってのはともかく、まだ、それを自在には操れないわけだ」
ころがっていた石材の破片で地面をぐりぐり抉りながら、
「一花のしわざじゃない空間の歪み……道、が、勝手にできたものなのか、それとも別の誰かが作ったものなのか。一花みたいに、無極だったか? そーいうマレな人間だけが使える能力だとしたら、そいつを探すという線もアリなわけだよな」
いつのまにか地面に、あたしらしき棒人間と、もう一人の棒人間が生まれていた。