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「……お礼を言ってもらうようなことじゃ、ないのに」
こみ上げてくる涙をへの字口でこらえて、我ながらかっこ悪い顔をしているだろうなと思いながら、宏志さんを見上げる。
そして、町に目をやる。消された人たちのことを思う。その中には、あたしのもう一つの家族もいる。
「まだまだ、こんな町が増えてくのかもしれない」
「酷い話だよな」
「道を作れたあたしも、きっと……見つかったら」
身震いがした。
改めて認識する。とっても危険だ、ということを。
「歩き回らずに、練習したほうがいいのかな」
「あてもなく探すよりはいいんでないか? 一度は作れたんだし。どんな状況で作れたか、思い出してみ」
「……思いっきり走った」
「ほかは」
「なんだかすっごく早く、アパートについた気がする」
「そんなに全速力? それで、苦しそうにしてたの」
「ん……でも、着いたときは全然ラクだったような。着いてから、胸の奥がこう、苦しくなって」
「気が抜けたから、とか」
「そうなのかな……」
同じことをしたら、また、道を作れるのだろうか? あたしの家から斗真のアパートまでの距離というと、ほぼ、いま歩いてきた距離だ。普段からこれといった運動もしていないあたしが、休むことなく走りきれる距離では……なく、ない?
「ほんとにあたし、走ったのかな?」