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涙を見せないように、歯を食いしばって、宏志さんを振り返り見上げる。
「……こっちではあたし、お尋ね者みたいな存在なのかもしれません……」
「悪いこと、したのか?」
「そんなつもりはなかったんですけど。結果的に……迷惑どころか……」
ヒロさんや、ほかの町の人の命を奪うきっかけになってしまったんじゃないか……。
こちらの政府の人たちは、何を、どこまで察知できるんだろう。空間の歪み。もしかしたら、あたしのこと。
「急ぎましょう」
あたしも、いつ露見されるかわからないんだ。もっと危機感を持たなくちゃ。
緊迫した空気を感じとってか、宏志さんはそれ以上、話しかけてはこなかった。
勘を頼りに路地を進んでいく。途中、犬の散歩の人とすれ違ったけれど、つとめて平静を装った。無極の人間と、陰の人間だから、気取られてしまっている可能性は大だけど……騒ぎ立てては終わりだ。通報される前に、図書館を探しあてられたらゲームクリアだ。
はたして、あたしの町には辿りつくことができた。言いようのない感傷が込み上げてくる。空気は以前よりいくらかましになっているように思う。
無傷な町を振り返り、ひと気が少なかったことに感謝した。両隣の町がこんな目にあっているのだから、あんまり出歩きたくはないよね……。