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祈りながら早足で歩いて、焦土の端へきた。道路の生垣の向こう側にはふつうの町があって、その差に打ちのめされそうになる。
ひと気がないのを確認して、狭い路地に入った。宏志さんの風貌は目立ってしまうから、できるだけ周りから目視できなさそうな場所を選んで歩く。
ここは知っている町だろうか。それとも、方向を間違えてしまっただろうか。
この世界にはもう、頼りにできるよすがはない。あたしがしっかりしないと。宏志さんを無事に元の世界に戻してあげなくちゃ。
「……なあ、一花」
うしろから聞こえてくる、うかがうような声。
「なんか、これ……迷いこんじまった感がすごいんだけど」
「……そう、ですね」
振り向かずに歩いていく。
「宏志さんの世界は陰の世界と呼ばれていて、こっちは、陽の世界って話です」
「五行か」
「関係はありそうですけど、よくわかりません」
「一花は、おれらのほうの人、だよな?」
「メインはそうなんですけど、合わさってるみたいです」
「ええっ。それって、どうなん」
「無極って言われました」
ーーヒロさんに、と続けそうになって、立ち止まる。すれすれで宏志さんも立ち止まる。