100/132
73
呆然として立ち尽くす宏志さんに、どう説明したらいいのか……とにかく、ここから離れなくてはいけない。空気が身体によくないし、何より目立つ。あたしが最初に陽の世界にきたときに見つけてくれたのは斗真だけど、今回はそうもいかない。彼はいま陰の世界にいて、彼自身の中で行方不明中だ。
泣き叫びたくなる気持ちを必死にこらえ、宏志さんの手をとる。この焦土がどこまでつづいているわからない。行くあてなんかない。でも、立ち止まっているわけにはいかない。
自分のしわざで陽へきてしまった気はするけれど、どうやったらまた同じように移動できるのか見当もつかなかった。
「一花……、ここ」
「あまり息を吸わないでください」
「えっ、ちょ……むずかしいな」
それきり宏志さんは黙ってくれて、あたしの誘導におとなしくついてきてくれた。
ヒロさんのマンションに出現したはずの空間の歪みは見当たらないので、あれきりで消滅したんじゃないかと思う。まだ存在している可能性があるのは、あたしの町の廃墟図書館だ。歩いている方角が、あっていますように……。