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頭痛

 気がついたら真っ白な天井が見えた。

 どうやら私はベッドに寝かされているらしい。身体が痛い。首を動かしてぐるりと辺りを見回す。左側を見たとき目に入ったのは、大きな窓と、ベッドの脇にある小さな棚のようなもの。上には花瓶に入った鮮やかな花がある。


「病院……」


 声が出た。

 何故私は病院になんているのだろう? 目を覚ます以前のことを思い出そうとしてみるが、瞬間的に酷い頭痛がして、思い出せない。

 此処は、病院。私は……

 ――私は、誰?


「モエ!」


 知らない女の人と、知らない男の人が並んで入ってきた。

 女の人は相当泣いたあとのようで、鼻声な上に目元が真っ赤になっている。


「モエ……! 良かった、本当に……!」


 モエ、というのが私の名前なのだろうか。

 身を起こし呆然とする私の様子に何かを感じたらしい。男の人が女の人の肩を引いて、耳元で何かを囁く。女の人の顔色が見る間に青白くなっていく。


「モエ――私たちが分かる?」


 私は黙って首を横に振る。

 女の人は左手で口を押さえて、右手をベッドの縁に掛けて、泣き崩れてしまった。男の人が女の人の横に跪いて、肩を抱く。私はどうしようもなくて、ただその様子を見つめている。

 多分、大切な人……お母さんと、お父さんなのだろう。なんとなく。


「ごめん、なさい」


 それだけ、喉から零れ出た。

 女の人は泣き止まない。男の人は完全に俯いてしまった。


「ヒナタノさん」


 白衣を身にまとった背の高い男の人―たぶん、先生―が、サンダルをパタパタ言わせて入ってくる。ヒナタノというのは、苗字だろうか。

 先生は私たちの様子を見るなり目を丸くする。


「私たちのことが……っ、わからない、そうで……」


 男の人が肩を震わせながら途切れ途切れに言う。

 先生は一度口を開いたけれど何も言わず、一度閉じた口をもう一度開いて「そうですか」と言った。それから何かをカルテに書き込んで、呟いた。


「記憶喪失……か」



 あの後、三人は病室を出てまた何処かへ行った。

 女の人の泣き声、出て行く直前に一瞬だけ見た泣き顔が頭から離れない。親、だからだろうか。とても悲しく、申し訳ない気持ちになってしまう。


「……ヒナタノ、モエ」


 私の名前。漢字は分からない。

 何が起こったのかも分からない。身体が痛いことと病院にいることから、事故か何かに巻き込まれたのだろうということは分かるけれど。

 私は、一体誰なのだろう。


――モエ!危ないっ……!


「痛っ……!」


 頭が、酷く痛む。

 思い出そうとすると、それを阻むように。

 そうだ、眠ってしまおう。この痛みを忘れるために。目が覚めたら、そう、何事も無かったかのように、思い出しているかもしれない――……

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