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恒星監査最終記録:SOL/E-3

作者: 森の ゆう
掲載日:2025/12/16

宇宙において、生命は奇跡ではない。

条件がそろえば発生し、条件が崩れれば消える。ただそれだけの現象だ。

意味や価値を与えるのは、常に当事者である生命自身にすぎない。


恒星番号SOL。

第三軌道惑星、識別番号E-3。

この惑星に発生した知的生命体は、自らを人類と名乗り、世界に名前を与え、歴史を編み、物語を信じた。


人類は優秀だった。

彼らは火を使い、言語を作り、数学によって自然を理解し、やがて自分たちが恒星に依存した一時的存在であることに気づいた。惑星の資源が有限であることも、環境が不可逆的に変化することも、争いが文明を内側から破壊することも、すべて理解していた。


理解していた。

だが、行動しなかった。


外縁監査機構は、太陽系誕生以前から存在する観測主体である。

彼らは創造しない。救済しない。裁かない。

判断するのは一つだけ――その知的生命体が、宇宙構造に対して継続的な不安定要因となるかどうかだ。


恒星系SOLは、長期監査対象だった。

理由は単純である。

人類は、危機を正確に予測し、共有し、議論できる段階に到達しながら、それを是正する意思決定を繰り返し放棄した初の文明だった。


戦争は無意味だと知っていた。

環境破壊が致命的だと理解していた。

技術が倫理を追い越せば破滅に至ることも学んでいた。


それでも人類は言い続けた。

「今ではない」

「まだ間に合う」

「次の世代が解決する」


問題は理解されたまま保存され、行動だけが先送りされた。

この遅延こそが、監査における決定的要因だった。


西暦2043年9月17日。

地球時間で未明。世界各地の観測施設が、太陽の異変を検知する。フレアは発生していない。爆発もない。しかし核融合反応の位相が、理論上あり得ない揺らぎを示していた。


科学者たちは首をひねり、原因究明を始めた。

政治は沈黙し、メディアは様子見を選んだ。

人類は、まだ眠っていた。


その瞬間、外縁監査機構の判断は確定していた。


結論:修正不能。

部分破壊では意味を成さない。主要都市の消失、指導層の排除、文明インフラの崩壊。それらでは人類は絶滅しない。地下、深海、極地、軌道上施設に生存の余地が残る。


目的は文明の停止ではない。

人類という生物種の完全消去である。


選択された処理方式は、恒星干渉型殲滅プロトコル――EX–SOL–Ω。


太陽内部に長期潜伏していた観測構造体が、最終段階へ移行する。恒星を爆破する必要はない。爆発は予測され、対策される可能性がある。必要なのは、恒星が恒星として成立するための制御条件を解除することだった。


制御を失った太陽は、爆発しなかった。

代わりに、秩序を失ったエネルギーを全方向へ放出した。

それは熱でも光でもなく、物質結合そのものを否定する干渉だった。


放射は光速で伝播し、惑星E-3全域へ同時に到達する。


燃焼は起きない。

衝撃も生じない。

逃げる時間も、理解する時間も与えられない。


人類は、人類として認識される前に分解された。細胞は結合を維持できず、遺伝子は情報として成立せず、有機物という概念そのものが崩壊する。地下施設、深海の圧力殻、極地基地、軌道上コロニー。すべてが同時に無効化された。


動物も植物も、微生物すら残らない。

化石も、廃墟も、電波記録も存在しない。


五分後、惑星E-3には何も残らなかった。

生命が存在した証拠は、宇宙から完全に消去された。


生存率:0。

再進化確率:0。

誤差要因:検出されず。


外縁監査機構は最後に確認を行う。

人類は警告を理解していたか。


答えは肯定だった。

理解し、議論し、記録し、それでも行動しなかった。


それは事故ではない。

不運でもない。

選択の結果である。


【追加補遺:最終監査記録】


外縁監査機構は本処理を「罰」や「制裁」とは定義しない。罰とは、修正と再選択の余地がある存在にのみ適用される概念であり、人類にはその段階がすでに存在しなかったからである。人類は幾度となく破滅の兆候を認識し、言語化し、記録し、警告すら共有していた。それでも行動は常に先送りされ、責任は分散され、最終判断は誰のものでもなくなった。


この「理解しているという自己認識」と「何もしないという選択」の乖離こそが、致命的欠陥である。宇宙的評価において、意図や感情は加点対象ではない。結果のみが存在条件を決定する。人類は自らを理性的存在と定義し続けたが、その合理性は常に未来へ逃げ続けた。


よって本件は失敗ではなく、到達点である。

文明としての人類は、成立条件を自壊的に否定しきった。

記録保存理由は警告ではない。

再発防止のための参考事例としてである。

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