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第3章 深夜の囁き

「こんな時間まで起きていてはダメだ」


エミリーの父親は腕を掴み、厳しい目で娘を見つめていた。その視線は自然とレオンにも向けられ、少し探るような雰囲気をまとっていた。


「ええと、そろそろ解散しようか」


レオンはエミリーの父の視線を感じながら、軽く微笑んで立ち上がった。これ以上ここにいると、余計な警戒を抱かせてしまいそうだった。


エミリーは少し考えたあと、カウンターの奥から小さな紙切れを取り出した。そして、ボールペンを走らせると、それをレオンの手に押し付けた。


「これ……私の連絡先」


レオンは驚いてそのメモを見た。電話番号のほかに、一言だけ走り書きされていた。


**“また話せることを願ってる”**


彼は苦笑しながらそれをポケットに滑り込ませた。


「ありがとう。また何かあったら連絡するよ」


エミリーは微笑み、小さく頷いた。彼女の父がじっとその様子を見守る中、レオンはゆっくりとロビーを後にした。


外に出ると、風が一段と強まっていた。西側の山から吹き下ろす冷たい風は、まるでモーテル全体を包み込むようにうねり、街灯の光を揺らしている。


「この街はいつもこんな強風が吹いているのか?」


レオンは独り言を呟きながら、周囲を見渡した。風に巻き上げられた落ち葉が地面を滑るように走り、遠くにある看板がわずかに軋む音を立てている。


「やれやれ、こんな荒れた夜じゃ安眠できそうにないな」


彼は肩をすくめながら、足早に自分の部屋へ向かった。建物の影が伸び、不気味な静寂が夜の空気を支配していた。


部屋の前まで来ると、彼はふとドアに記された番号を見た。


**“213”**


レオンは小さくため息をついた。


「213か……縁起の悪い番号だな。こういう時に限って、こういう部屋に当たるんだよな」


彼は昔聞いた話を思い出した。アメリカでは「13」は不吉な数字として忌み嫌われることが多い。多くのホテルやモーテルが「13号室」を作らないほどだ。


そして、ロビーで鍵を受け取った時の事を思い出す。




ーー(回想シーン)ーー


レオンはロビーのカウンターでチェックインを済ませると、受付の女性――メアリーが宿泊カードを確認しながら、ふと苦笑した。


「213号室ね……ご愁傷さまだね。まさか、モーテルの呪われた部屋に泊まることになるなんて思ってなかったでしょう?」


レオンは思わず眉をひそめた。


「何か問題でも?」


メアリーはいたずらっぽく肩をすくめ、書類を整理しながら答えた。


「このモーテルに泊まるのは初めてなんだよね?なら知らないのも無理ないわ。213号室はね、ちょっとした“曰く付き”の部屋なの。」


レオンは興味を引かれながらも、少し眉を上げた。


「曰く付きの部屋?」


メアリーは続ける。


「そう、過去に泊まった客が、決まって夜中に急にチェックアウトしたり、妙なことが起こったって言い出したり、誰もいないのにベッドのシーツが乱れていたこともあったってさ……まあ、気にしないならいいけど」


レオンは疑問を抱きながら首を傾げた。


「たまたま割り当てられたってわけか」


メアリーはにやりと笑い、ボールペンをくるりと回しながら続けた。


「そうね。でも、不運なことに“西風が強い日”には特に変なことが起こるらしいのよ。今夜は……かなり吹くらしいわね」


レオンは窓の外を見た。風が強くなりかけている。

モーテルの看板を揺らし、街灯の光がかすかに瞬いていた。そして半信半疑のまま、腕を組む。


「それってただの偶然じゃないのか?」


メアリーは肩をすくめ、冗談めかして言った。


「偶然かもね。でも、過去に泊まった人は皆、二度とこの部屋を選ばないって言うわ。まあ、今夜はぐっすり眠れるといいけど……それとも、夜中に逃げ出す側になる? ふふっ、夜が明けるまで、何も起こらないことを祈っておくわ」


「逃げ出した人は強風の中なのにどこに逃げるんだよ?」

疑い深くレオンは尋ねる。


メアリーは残念がって

「簡単よ、そこのソファ。そこで震えながらずぅ〜と朝まで丸まってるんだって。スタッフからしたら邪魔者よ!」


その口調にはどこか冗談めいた調子があったものの、わずかに陰を感じさせた。


レオンは苦笑しながら宿泊カードを受け取った。


「そんな簡単にビビるほど、俺は臆病じゃないさ」


メアリーはいたずらっぽく目を細めると、片手を軽く挙げて笑った。


「なら、健闘を祈るわ。何かあっても、夜勤スタッフは慣れてるから相談してね」


ーー(回想終了)ーー



「よりにもよって、そんな部屋かよ……」


レオンは軽く舌打ちしながらドアに手を伸ばした。


その瞬間だった。


背後でかすかな物音がした。風の音と混ざるように、かすかな気配が背中に張りつく。


そして、耳元で低い声が囁いた。


「ようこそ……長い夜へ。この扉を開けるなら、戻ることはできない」


レオンは息をのんだ。すぐさま振り向いたが、そこには誰の姿もなかった。街灯はかすかに明滅し、風は冷たく頬を撫でるだけ。


彼は急いでドアの鍵を開け、部屋の中へ転がり込むように入った。そして、すぐさま鍵を閉めた。


心臓の鼓動が速まる。


今の声は……誰のものだったのか?

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