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第2章-2 不穏な夜

ロビーの時計が午後11時を回った頃、レオンはソファに腰を下ろし、エミリーを待っていた。モーテルのフロントは静かで、時折車が通り過ぎる音が遠くから聞こえる。まるでこの場所だけが時間の流れから切り離されているようだった。


「待たせた?」


エミリーがカウンターの向こうから顔を覗かせた。レオンは微笑む。


「ちょうどいいタイミングだったよ」


彼女は両手にコーヒーカップ持ち、レオンの向かいに座った。


そして片方を差し出すと、少し疲れているようで息をつく。


「ありがとう、」


レオンは、香ばしい香りを堪能しながらゆっくりと味わう。


「それで、噂の話だったね」


彼女がそう切り出すと、レオンは頷き興味深そうに尋ねた。


「このモーテルで実際に奇妙なことが起こったのを見た人はいるの?」


エミリーは少し考えてから、窓の外を眺めた。風が強く、木々の影が踊るように揺れていた。


「私自身は見たことないんだけど……ここの夜勤のスタッフが言ってたの。夜中のフロントで誰もいないはずの廊下から足音が聞こえたり、ロビーの椅子が勝手に動いたような跡があったりするって」


レオンはカップを手の中で回しながら問いかける。


「それって、何かのいたずらじゃないのかな?」


エミリーは小さく笑い、首を横に振った。


「そう思ったこともある。でもね、不思議なのは、こういう話を聞く日はいつも同じなの。西側の山から強い風が吹き下ろしてくる日なのよ」


レオンは眉をひそめた。


「風と関係があるのか?」


「そうじゃないかと思ってる。西風が強い夜のあと、必ず誰かが奇妙な話をするの。何かがこの風と一緒に降りてきているのかもね」


その時、窓の外からさらに強い風の音が響いた。気づけばモーテルの周囲は黒い影を帯びたような空気になっている。


「ちょっと、外……様子、おかしくない?」


エミリーが不安げに窓の外を指さした。レオンも振り返ると、街灯の光が揺らぎ、遠くの建物の輪郭がぼやけて見えた。


「嵐かもしれないな」


だが、彼の言葉が終わる前に、ロビーの奥の廊下から……かすかな、足音が響いた。


2人は息をのんだ。足音は、ゆっくりとロビーへと近づいてくる。そして、不意に低く、優しい声が響いた。


「エミリー、こんな時間まで起きてるのか?」


エミリーが肩をすくめて振り返ると、そこにはモーテルのオーナーであり、彼女の父親である男性の姿があった。


「お父さん……」


彼は腕を組みながら、ロビーの時計をちらりと見た。長針が深夜2時を指している。


「もう寝なさい、こんな時間に起きていては体に悪い」


エミリーはレオンと目を合わせ、苦笑した。今の足音は、ただ父が心配して見回りに来たものだったのだ。しかし、外の風はまだ止まらず、モーテルの周りを不気味に吹き荒れている――まるで何かを運んできたかのように。

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