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第12章 語られた真実

モーテルの外観は、夜の静けさに包まれ、ほの暗い明かりだけが窓から漏れていた。


エミリーの父が車を停めると、レオンもその隣にバイクを停めた。そして3人はそのまま事務所のロビーへ向かった。


時刻は19時。チェックインはすでに終了しているため、ロビーには受付当番以外に誰もいない。


静寂とともにどこか緊張感が漂う空間。


父は軽く息を吐きながら言った。


「エミリー、コーヒーを3つ入れてくれないか?」


エミリーは肩をすくめながら微笑んだ。


「OK、わかったわ。お父さんはブラックよね。レオン、砂糖とミルクはどうする?」


エミリーの問いかけに父は軽く頷く。


レオンはエミリーを見ながら答えた。


「じゃ、ミルクをお願いするよ。」


父はロビーのソファを指さしながら言った。


「とりあえず、そこにかけてくれ。」


レオンとエミリーの父は対面でソファに腰を下ろした。


部屋の中に流れる、気まずい沈黙。


何か言葉を交わさなければならないと思いながらも、すぐには話し出せなかった。


しばらくすると、エミリーがコーヒーを持って戻ってきた。


彼女は静かにカップを配り、父とレオンの前にそれぞれ置いた。


そして、レオンの隣に座る。


エミリーの父は「お前は私の隣に座りなさい!」とでも言いたげな表情をしていた。が、それを予測していたかのように、一瞬ニヤけるエミリー。


エミリーはコーヒーを手にしながら、口を開いた。


「それで、お父さん……あの名前に覚えがあるのよね?どういうことなの?」


彼女は直接本題に入った。


父は眉をひそめながら、写真を静かに見つめた。


レオンも言葉を継ぐ。


「写真の裏に、その人の名前がウィンチェスターって書かれてました。貴方たちと同じ名字です。」


彼は視線を父へと向ける。


「実は、鉱道の入口で変な声がして、その後に写真を見たら、その人物の顔が焦げていたんです。無関係だとは思えません……。もしかして、親戚なのでしょうか?」


レオンとエミリーは、鉱山会社の事務所で知った閉山までの経緯、奇妙な声を聞いたり写真を発見したこと、そして鉱道入口で見た**黒い影**と囁かれた言葉について、細かく説明していった。


**写真と声が意味するものは何なのか。**


エミリーの父はじっと話を聞いていたが、次第に眉間に深い皺を寄せていく。


説明を聞き終えると、しばらく沈黙した。


そして、重い空気を払いのけるように、ゆっくりと語り出した。


「……その人は、私の祖父だ。エミリーからしたら曽祖父になるな。」


部屋にさらに深い静けさが落ちる。


エミリーは思わず息を詰まらせた。


「やっぱり……私と関係してたんだ……」


彼女は写真を見つめながら、静かに呟く。


父はうなずいた。


「あぁ……そうだ。鉱山会社の事務所でお前たちが知ったように、彼はあの落盤事故で亡くなった。」


そして、新たな事実を語り始めた。


「実はな、この町の住人の半数は、鉱山の町から移り住んできた者たちだ。落盤事故に対する鉱山会社の対応は酷いもので、救助が遅れたために閉じ込められた者は全員亡くなった。さらに、事故現場の地層は極めて危険な状態で、崩落の恐れがあったから、犠牲者の遺体の回収すら行われなかった。」


父は静かにカップを手に取ると、それをゆっくりとテーブルに置いた。


「それから……不可解な出来事が増え始めた。炭鉱会社への不満は瞬く間に広がり、業績の悪化と作業員の反発が問題になったんだ。そして会社は鉱山を早急に廃業し、町から人を追い出すこと決断を下した。」


父の声にはわずかに怒りが滲んでいた。


「会社は、住人に破格の移住費用を渡す代わりに、即退去するよう促したんだ。犠牲者の親族も満足な弔いをする時間すらなく、町を後にした。こうして、幹線道路沿いの町へ半数が移り住み、残りはあちこちへと散っていった。」


そして、ロビーの内観を紹介するかのように腕を広げて


「因みに、このモーテルもその移住費用で私の父が開業したものだなんだ。」と付け加えた。


エミリーとレオンは、ただ黙って話を聞いていた。


父は目を伏せながら続けた。


「元々、この町に住んでいた者たちによると、我々金鉱の町から移り住んできた者たちが引っ越してきた後、西風の強い日が多くなり、決まって不可解な出来事が発生するようになったという。恐らく、それは満足な弔いができなかったことが原因だろう……。だから、我々は何度も鉱道へ出向き、供養を試みた。しかし、状況は変わらないまま今に至っているんだ。」


しばらくの沈黙が流れた後、エミリーが口を開いた。


「……ねぇ、何か他に供養する方法はないの?」


父は考え込むように、視線をテーブルへ落とす。


そして、ゆっくりと答えた。


「この町の外れに慰霊碑があるだろう。それは、鉱山事故で亡くなった者たちを供養しようとして建てられたものだ。そこに、それぞれが片身となる物を入れたんだが……効果はなかった。もしかしたら、亡くなる直前に身に着けていたものなら、成仏できるかもしれない……。」


レオンは続けて言った。


「でも、鉱道の入口は塞がれていて、事故現場までは入れない。」


父はゆっくりと頷いた。


「……あぁ、それに入れたとしても岩盤が弱くて危険だ。入りたがる者なんていないのさ……。」


2人は、どうすることもできない無力感を実感した。


父は話題を変えるように言った。


「さっ、これで話は終わりだ。ところでレオン君、君は今日どこに泊まるんだ?」


はっとして気づくレオン。


「……宿泊の予約、入れてません……」


既にチェックインの受付は終了しており、空室があるかも分からない。


父は肩をすくめながら言った。


「213号室なら空いてるぞ。絶景ポイントを見るなら明後日の午後には道が通れるようになるらしい。あの部屋でよければ、半額にしてやるから2泊してもいいが、どうする?」


レオンは少し躊躇しながらも、答えた。


「……分かりました、2泊お願いします……」


エミリーはからかうように笑った。


「今夜は何が起きるか楽しみだね!明日も観光地案内してあげる!」


レオンは苦笑いで返した。


時刻は20時半になろうとしていた。


エミリーの父はレオンに言う。


「もうこんな時間だ。昔話に付き合わせた代わりに、夕飯を食べていきなさい。」


エミリーは大賛成し、


「それいいね!早く夕飯にしよう!その前にチェックインの手続きねっ!」


と、受付当番の元へ走り出し、書類を受け取りに行くのだった。


3人は重い真実を胸に秘めながらも、今宵の夕食と明日の新たな一日へと向かう準備を始めた。


モーテルの薄暗いロビーには、過去の苦悩とともに、未来への小さな希望すらも感じられる不思議な温かさが漂っていた。

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