第11章 闇夜の邂逅•出迎人
**地平線の向こうへ太陽が沈み、空は深い青へと変わっていった。**
レオンとエミリーはバイクに跨り、モーテルへと続く一本道を走り始める。
夜の帳が降り始め、視界に広がるのは果てのない闇。
街灯はひとつもなく、ヘッドライトの光だけが道を照らす。
遠くでコヨーテの遠吠えがかすかに響き、静寂の中に夜の世界が広がる。
エミリーはバイクの振動を感じながら、目を閉じた。
心地よいエンジンの鼓動と柔らかなシートの感触が、今日の疲れをそっと癒してくれる。
**鉱道での出来事**
「なあ……」
レオンが口を開いた。
「さっきの……鉱道の入口でのこと、どう思う?」
エミリーはヘルメット越しに彼を見た。
「写真と影……あれ、偶然だと思う?」
「偶然なわけないでしょ。写真と鉱道の入口を交互に見たら、黒い影が現れたのよ?」
「だよな……それに、警告するような声まで聞こえた……」
レオンの声には慎重な色が混じっている。
「つまり、何かが俺たちを鉱道に近づかせたくないってことか……?」
エミリーは少し考えてから言った。
「それが、事故で亡くなった鉱夫たちの声なら……私たちを止めてるのかもしれない」
レオンは沈黙する。
その言葉が事実なら、ここで起こった事故はただの落盤ではない。
何かが、この町に隠されている。
会話は次第に他の話題へと移り、二人はそれぞれの考えを巡らせながらバイクを走らせた。
**夜空の下で**
しばらくして、エミリーがポンポンとレオンの肩を叩いた。
「ねえ、バイク停めて」
レオンは緩やかにブレーキをかけ、エミリーの方を見た。
「どうした?」
「エンジンを切って、上を見て」
レオンはエミリーの言う通りにし、バイクのエンジンを止める。
静寂が訪れた。
そして、顔を上げる――
**満天の星空と、鮮やかに光る月がそこにあった。**
レオンは息をのんだ。
「……こんなに綺麗だったのか……」
彼は今まで気づかなかったことに驚き、そして心を奪われる。
星々は無数の光を放ち、遠く静かに瞬いている。
広大な夜空の下にいると、自分がどれほど小さな存在なのかを感じる。
「こんな町でもいいところあるんだ。それがこれ、私が紹介する**1つ目の観光スポット**」
エミリーは冗談交じりに言った。
レオンは笑う。
「確かに……観光案内に載ってもいいな、これは」
エミリーは星空を見上げながら、小さく息を吐いた。
「夜の空って、ただの闇じゃないわ。人が見ることのできる最後の境界線なのよ」
「境界線……?」
「だって、この先は宇宙でしょう?無限に広がっているのに、私たちはここからしか見上げることができない」
「……そうかもな」
エミリーはどこか懐かしむように、空を見つめ続けた。
**車の接近**
しばらく静かに星を眺めていたそのとき――
遠くから光が近づいてくる。
ヘッドライトの明るさが地面を照らしながら、一定の速度でこちらへ向かっている。
エミリーはそれを見て、眉をひそめた。
「……こんな時間にこっちに来るなんて怪しい……」
レオンはすぐに判断する。
「バイクがある以上、すれ違う時に必ず俺達に気づく。もし、変な奴らなら直ぐに逃げよう。それまではライトを切っておく。」
エミリーは無言で頷いた。
エンジンもライトも止めたまま、2人は静かに車を待った。
車は近づき、すれ違ったその瞬間――
**「キキィッ!」**
車が急停止した。
レオンはすぐに異変を察知し、急発進しようとする。
「まずいっ……!」
しかし、その刹那――
**「エミリーッ!!」**
車から男の怒鳴り声が響いた。
エミリーは息をのんだ。
その声には聞き覚えがあった。
彼女はレオンを見る。
しかし、レオンは逃げる準備に気を取られ、周囲の状況を把握できていない。
エミリーはすかさずレオンの肩を叩き、強く言った。
「レオン!待って!」
レオンはハッとしたように彼女を見て、動きを止める。
男が近づいてくるのがわかった。
そして、エミリーはため息をつくように言った。
「……あれ、お父さん……」
まるで怒られるのを覚悟したかのように――。
車のドアが勢いよく開かれた瞬間、エミリーの父は険しい表情で2人を睨みつけた。
直後、彼はドスンドスンと荒々しく地面を踏みしめながらこちらへ向かってきた。
足音は乾いた地面に響き、怒りを帯びた歩調はまるで威圧感を伴っていた。
その勢いのまま、目の前に立ちはだかるように歩み寄る。
「こんな時間まで何やってるんだ!!」
その怒声が夜の静寂を切り裂いた。
エミリーは小さく息を飲む。
「あー……ゴメンってば、お父さんッ!」
彼女は気まずそうな顔をしながらも、少しふざけたように父をなだめようとする。
しかし、父の表情は変わらない。
すると、レオンが一歩前に出て口を開いた。
**「エミリーのお父さん、ここまで遅くなったのは俺のせいです。」**
「彼女に観光案内を頼んで、つい見て回るのに夢中になってしまいました。彼女を叱らないでください。」
レオンの真剣な表情に、父はじっと彼を見つめた。
沈黙が流れる。
エミリーは視線を父とレオンの間に行き来させながら、タイミングを見計らう。
「……ってか、お父さん、これ見て!」
彼女は先ほど鉱山会社の事務所で見つけた**集合写真**を差し出した。
父は一瞬訝しげな表情を見せながら、それを受け取る。
「鉱山の入口での記念写真じゃないか。こんなもん拾ってきてどうすんだ?」
不機嫌そうに答える父。
エミリーはすぐに指を差し、焦げた部分を指摘した。
「んー…違うの、ここ!! 見て!!」
父は写真をじっと見つめる。
確かに、一人の作業員の顔が焼け焦げたように黒くなっている。
「……焦げてるな。だから何なんだ?」
面倒くさそうな口調で答える父。
しかし、エミリーは食い下がった。
「裏も見て、焦げてる人の名前なの。」
父はわずかに不服そうな顔をしながら、裏面に目を向けた。
そこには、撮影日と作業員の名前が記されている。
「エドワード・ウィンチェスター……」
父はそう呟くと、突然顔色を変えた。
**沈黙が訪れる。**
エミリーはそんな父を見つめながら、次の言葉を待った。
しかし、父はしばらく黙り込んだまま、写真を握りしめた。
そして、重々しい声で言った。
「ここはもう暗い……とにかくモーテルへ帰るぞ。話はそれからだ。分かったな。」
強い口調だったが、その声には先ほどの怒りとは違う緊張感が滲んでいた。
**車へ乗るように言われるエミリー**
レオンとエミリーはバイクへ向かおうとしたが、父はそれを制するように声をかける。
「エミリーは車に乗りなさい!!」
予想していたとはいえ、エミリーは肩を落とした。
そして、レオンだけに聞こえるように小声で呟く。
「だって……後でね……」
どこか寂しそうな言葉を残しながら、彼女は父の車へ乗り込んでいった。
**レオンへの指示**
父はレオンの方を振り向き、短く告げた。
「レオンと言ったね。君は車の後についてきなさい。」
レオンは申し訳なさそうにうなずく。
「……はい。」
その言葉とともに、車はゆっくりと動き出した。
レオンもエンジンをかけ、車の後を追うように走り出す。
そして、夜の闇に包まれながら、彼らはモーテルへと向かった――。
だが、エミリーの父の表情は、沈黙の中に何かを抱えていた。
その答えは、モーテルに着いたときに明かされるのかもしれない。




