表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

第10章-1 閉山の真相

レオンとエミリーはバイクを停め、ゆっくりと鉱山会社らしき事務所の前へと歩を進めた。


**時刻は正午を過ぎたばかり。**


太陽は真上に近づき、じりじりとした陽射しが容赦なく大地を照らしている。


廃墟となった町の建物の影は短くなり、乾いた空気が広場に漂っていた。


遠くの地面では陽炎が揺らめき、熱に包まれた鉱山跡地は昼の静寂に支配されている。


建物の周辺には、かつて鉱山労働者たちが使用していた道具が、年月の経過とともに風化しながらもわずかに残っていた。


**廃坑の名残**


レオンは足元の瓦礫を踏みしめながら、周囲を見渡す。


そこには、錆びついたツルハシや風化した木製の掘削フレーム、折れたトロッコの車輪などが散乱していて、強い日差しが、それらの影をくっきりと地面に落としていた。


崩れかけた倉庫の扉の隙間からは、煤けた鉱山用ヘルメットが見え、壁に立てかけられた梯子には、かつての鉱山労働者たちが日々の作業で手にしたであろう汚れた手形がかすかに残っている。


昼の静けさと熱が、まるでこの場所が時代に取り残されたことを証明するかのようだった――。


「ここには、何かの痕跡がまだある……」


レオンはつぶやくように言い、慎重に地面に落ちた金属製のバールを拾い上げた。


「かなり古いな……この道具、一体何年前のものだ?」


エミリーは彼の隣で静かに頷きながら、事務所の窓へと近づいていった。


**事務所内の様子**


エミリーは埃をかぶったガラス窓を袖で軽く拭い、視線を中へと滑らせた。


部屋の奥には、大きな木製のデスクが鎮座し、その上には使い古された製図道具や鉱山の見取り図らしき書類が散乱していた。


壁には、鉱床の分布を示す古びた地図や、鉱山の作業工程を記した掲示板が掛かっており、床には倒れた椅子が乱雑に転がっている。


ロッカーには作業着と思われる服がかけられているが、埃まみれで、すっかり色褪せていた。


「レオン、ここ……絶対に鉱山会社の事務所だわ」


エミリーが窓から目を離し、確信したようにレオンを見た。


「間違いないな」


レオンは周囲の景色と事務所内の様子を照らし合わせ、ゆっくりと頷いた。


「これだけ鉱山の管理資料が残ってるってことは、閉山の直前まで使われてたはずだ。ここに来たのは正解だったみたいだな」


エミリーは期待に満ちた目で事務所の入口へと向かう。


「試しに開けてみるわ」


彼女はドアノブに手をかけ、ひねろうとした。しかし――


「……駄目みたい」


ドアノブは硬く動かず、彼女は少し残念そうに息を吐いた。


「俺にも試させて」


レオンが代わりにドアノブを握り、ゆっくりとひねろうとした。その瞬間、彼は違和感を覚えた。


「んっ?」


レオンは指に伝わる感触に注意を向けた。


これは施錠されているのではない――中の機構が錆びて固まっているだけかもしれない。


力いっぱいひねると――


**「ガチャッ」**


錆びついた金属が軋むジャリジャリとした感覚とともに、ドアがゆっくりと開いた。


「鍵はかかってなかったみたいだな……ただ錆びてただけか」


エミリーは驚いたようにレオンを見た。


「本当に開いちゃった……」


レオンは軽く肩をすくめ、エミリーを促すようにうなずいた。


「行こう。閉山の真相を探らないとな」


2人は緊張感を滲ませながら、ゆっくりと建物の中へと足を踏み入れた――。


室内は、まるで時間が止まってしまったかのような静寂に包まれていた。


**埃が薄く積もり、透き通った布をかけたような雰囲気を醸し出している。**


誰の足跡もなく、荒らされた形跡もない――それは、この空間が何十年もの間、人の手を拒み続けてきた証拠だった。


レオンは周囲を見回しながら、ゆっくりと息を吐いた。


「……人の文明って、こうして時間がゆっくりと飲み込んでいくんだな……」


彼の言葉にエミリーは静かに頷く。


2人は保存状態の良さに注意しながら、並ぶデスクの上を調べ始めた。


書類の束、錆びついたインク瓶、過去の計画図――しかし、それらはどれも時間の経過を語るだけで、決定的な証拠にはなりそうになかった。


**不意に、レオンが小さく声を上げる。**


「エミリー!来てくれ」


エミリーはすぐに彼の元へ向かうと、レオンが指差すものを確認する。


**一冊の古びたノート。**


「夜間の当直日誌だ……」


レオンは慎重に日誌を手に取ると、破れそうなページを恐る恐るめくった。埃が舞い、紙の表面に薄れた文字が浮かび上がる。


---


**《夜間当直日誌 閉山前の記録》**


**〇月〇日 落盤事故から数日後に起き始めた異変**

事故の被害は想像以上に大きい。

坑道の一部は完全に崩れ、掘削機の回収もままならない。


新たな鉱脈を掘り進めようとしたが――何かがおかしい。


金の採掘量が激減し、他の鉱物もほとんど採れなくなっている。

以前と同じ地層に掘っているはずなのに、掘れば掘るほど何も出なくなった。


**〇月〇日 炭鉱夫たちの異変**

坑道へ潜った者の中に、体調を崩す者が続出している。


「ここに来ると、なぜか力が抜ける……」


医務室で診察を受けるが、どの炭鉱夫にも異常は見つからない。


しかし、皆が口を揃えて言う――

「採掘を始めると、体が重くなる……何かがおかしい……」


**〇月〇日 幻聴の報告**

事故現場の近くで働く者の間に、奇妙な噂が広がり始める。


「助けてくれ!」

「逃げろ!」

「来るな!」

「ここは危険だ!」


錯乱して作業を投げ出す者が現れ始めた。


誰もが事故現場の前を通るたび、亡くなった仲間の声を聞くという。


**〇月〇日 閉山の決定**

金の採掘量が減り、作業員の異常報告が相次ぐ中、経営陣は閉山を決定した。

これ以上掘削を続けると、**シェール層に達してしまうため、採掘は不可能となる。**


(**シェール層とは?**

シェール層は、堆積岩の一種で、地層が非常に細かく重なっているため、鉱脈を含んでいないことが多い。

採掘を続けても有益な鉱物がほとんど見つからないばかりか、地盤が不安定になる可能性があるため、鉱山としては適さない。)


つまり、閉山の決定は経済的な判断だけでなく、地盤の安全性を考慮した結果でもあったのだ。


**だが、誰もが思っている。**


炭鉱夫たちが聞いた声――それは本当に、亡くなった者の嘆きなのか?


いや、それだけではない。


**炭鉱へ入ることを止めようとしているのではないか――**


---


レオンがゆっくりと最後のページを閉じると、エミリーは息をのんだままノートを見つめていた。


「……ただの事故じゃない……誰かが、この炭鉱を封じようとしていた……」


彼女の言葉には、確信が混じっていた。


その瞬間――


**「ようこそ、悲劇の現場へ……」**


低い囁き声が、まるで事務所そのものが語りかけるかのように、2人の耳元で響いた。


次の瞬間――


**「助けてくれ! 死にたくない! 誰かいないのか、出してくれ!」**


まるで、頭の中に直接響いてくるような**叫び**が2人を襲った。


事故で亡くなった作業員たちの嘆き――絶望――恐怖――


しかし、その中に、一つの異質な声が混じる。


**「ここに来ては駄目だ、出ていけ!」**


全ての叫びとは異なり、それは明らかに警告の響きを持っていた。


次の瞬間――


**「出ろ――!」**


脳に響くような強い衝撃が2人を襲った。


レオンとエミリーは身体をこわばらせながら、事務所の空気が急に変わったのを感じる。


しかし、それはほんの一瞬の出来事だった。


気がつけば、先ほどまでの叫びが嘘のように消え、事務所は再び静寂に包まれていた――。


エミリーは震えた声で言った。


「……今の、何……?」


レオンは額の汗を拭いながら、静かに息を整えた。


「この場所が……俺たちを拒絶してる――」


そして、2人はこの場所のさらなる真実を探ることを決意する――。


レオンとエミリーは、静かに事務所を後にした。


外に出ると、それまでこもっていた熱気から解放された。


廃屋となった事務所の内部は、外よりも気温が高く空気は重く湿っていた。


扉を開けた瞬間、弱い西風が吹き抜けて汗ばんだ肌を撫でる。


気化熱の効果で、一瞬だけひんやりとした感覚が全身に広がった。


事務所で体験した声――囁き、嘆き、警告。


2人はその異様な現象を整理しようと話し始める。


「怨霊のような囁き……亡くなった者たちの嘆き……そして、俺たちを危険から遠ざけようとする警告……」


レオンがそう口にすると、エミリーは静かに頷いた。


「3つの種類の声があった……」


「そういうことだ。嘆いている者と、俺たちを拒む者がいる――」


2人は考え込むように視線を落とした。


犠牲となった者の叫びなのか、それとも事故現場そのものが、何かを隠そうとしているのか――。


いずれにせよ、この場所にはまだ答えが眠っている。


**沈みゆく太陽**


空はわずかにオレンジがかり始めていた。


長く伸びた影が、町の荒れ果てた地面を覆う。


**時刻は16時になろうとしていた。**


太陽は西へと傾き、町の建物が横に長く影を落とす。


遠くの山並みが黄金色に染まり始め、風が乾いた砂を軽く巻き上げた。


エミリーは時間の経過を意識しながら、腕時計をちらりと見る。


「もう夕暮れが近いわね……でも、最後にあと1カ所だけ捜索しましょう」


その提案を聞き、レオンも頷こうとした、その刹那――


**「ギィ〜ッ……」**


背後で、事務所のドアがゆっくりと開く音が響いた。


突然の出来事に、2人は驚いて振り向く。


レオンは、さっき事務所を出る際にきちんと扉を閉めたことを思い返しながら、不安げに呟く。


「……俺たち、ちゃんと閉めたよな?」


だが、その記憶ははっきりしている。


確かに閉めたはずなのに、今――目の前で静かに開いている。


**謎の写真**


「……あれ、なんだろう?」


エミリーは、半開きになったドアの奥を指差した。


レオンは慎重に歩み寄り、ドアを引き開ける。


そこに落ちていたのは――


**一枚の集合写真。**


レオンはそれを拾い上げ、じっと見つめた。


写真に映るのは、数名の金鉱夫たち。


背景には、金鉱の入口が写っている。


「……金鉱の入口で撮られた写真だな」


彼は写真の裏をひっくり返す。


すると、撮影日が記されていた。


**「1872年5月13日」**


金鉱事故の数日前に撮影されたものだった――。


エミリーは写真を見つめながら、ふと違和感を覚えた。


「……レオン、この写真、埃をかぶってない……」


レオンも思わず息をのむ。


事務所の中はどこも厚く埃が降り積もっていた。


しかし、写真が落ちていた場所は**そこだけ埃が軽く押しつぶされている。**


まるで、今まさに置かれたかのように。


だが、2人ともそんなイタズラをする隙はない。


誰かが置いたのか?


いや、それとも――。


**金鉱への決断**


少しの沈黙の後、2人は目を見つめ合う。


そして、レオンが口を開いた。


「……あと1カ所探索するなら、ここしかないだろ……」


彼は写真を掲げ、金鉱の入口を指し示した。


エミリーも深く息を吐きながら、静かに言った。


「……だよね……」


彼女の声には、決意とわずかな恐れが混じっていた。


しかし、もう迷うことはない。


2人は金鉱の入口へと向かった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ