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第9章 静寂の廃町

エミリーはレオンの背にしっかりと手を添え、バイクが静かに走り出す。


目的地は西側の山のふもと。距離にして約15km――。


**時刻は午前11時過ぎ。**


太陽は高く昇り、陽射しが強くなり始めている。道路のアスファルトに熱がこもり、遠くの地面がわずかに揺らめいて見えた。


風を切る音が心地よく響き、レオンはゆるやかにアクセルを回しながら景色を眺める。


日差しがハンドルやバックレストのクローム部分に反射し、道端の枯れかけた雑草の影が、夏の日のようにくっきりと地面に写っていた。


道路の横には枕木が等間隔に並んでいた。かつて線路が敷かれていた跡だろう。しかし、レールはすでに撤去されており、資材として再利用されたのだと容易に想像できた。


「レオン、本当に乗り心地がいいわね!」


後ろのエミリーが感動したように声を上げる。


「だろ?このマグザムはただのスクーターじゃない。乗る者に最高の快適さを与えてくれる」


レオンは得意げに言いながら、スムーズなカーブを描くように道路を進んでいく。


エミリーは腕を軽く回しながら、風の流れと一体になっている感覚を楽しんでいた。


しばらく走ると、エミリーがふと思い出したように口を開いた。


「そういえば……昨夜、213号室で何か奇妙なことは起きた?」


レオンは視線を前方に向けたまま答える。


「……起きたさ。部屋には俺しかいないのに、真夜中になったら妙な音がして……しかも、ベッドの周りの空気が一瞬ひんやりしたんだ。あの時は、何かがすぐ近くにいた気がする」


エミリーは背筋を伸ばしながら、わずかに身震いした。


「それって……窓を叩く音とか、誰かの気配とか?」


「そう。それも、風のせいじゃ説明できないんだ。窓はしっかり閉まってたし、カーテンも動いてなかった。なのに、音だけは聞こえた」


レオンはそこまで話すと、ふと思い出したかのように息を整え、声を低くする。


「それだけじゃない……バスルームでも奇妙なことがあった」


エミリーがレオンの背を軽く押すようにして、促す。


「何があったの?」


レオンはバイクのスピードを少し落とし、昨夜の出来事を振り返るように語り始めた。


「シャワーを浴びようとバスルームに入ったんだ。そしたら……鏡にぼんやりとした影が映ってた」


エミリーの表情が曇る。


「影?」


「ああ……最初は、背後に誰かがいるような気がして振り向いた。でも、何もいない。ただ静まり返ってるだけだった」


レオンは息を吐き、言葉を続ける。


「俺は疲れてるだけだろうって思ったんだよ。それで気にせずシャワーを浴びた。でも……」


「でも?」


「シャワーを浴びてる最中に……聞こえたんだ。カタ…カタ…って音が。浴室の扉が揺れてるような、微妙な音がな」


エミリーは沈黙したまま耳を傾けている。


「最初は風のせいかと思った。でも、次の瞬間……何かが囁いたんだ」


「囁いた?」


「そう、はっきりした言葉じゃない。でも、確実に何かが話してた……水の音に紛れてな」


レオンは肩をすくめる。


「……ようこそ……って聞こえた」


エミリーは思わず息をのんだ。


「それは……どこから?」


「分からない。でも、俺はすぐにシャワーを止めて鏡を見た。そしたら……また映ってたんだよ。さっき見えたぼんやりとした影が」


レオンの声には、昨夜感じた不気味さがにじんでいた。


エミリーは風を感じながら、じっと考え込む。


「それにしても……昨夜のこと、ちょっと引っかかってるのよ」


エミリーは少し眉を寄せる。


レオンの話を聞くほど、彼女の中で確信が強まっていく――すべての怪奇現象の元凶は、西の山にあるのではないか?


この町の不可解な出来事は、強い西風とともにやってくる。


213号室も、町の各所で発生する異変も、そして倒木までもが、その風に何らかの影響を受けている。


偶然にしては出来すぎているのだ。


「……やっぱり西の山が怪しいわね」


エミリーはゆっくりとつぶやいた。


レオンはバイクを軽くふかしながら答えた。


「確かに……その可能性は高いな」


そう話しているうちに、遠くに廃墟となった町が見えてきた。



**荒れ果てたゴールドラッシュの町**


町に入ると、そこはまるで西部開拓時代に飛び込んだかのような風景だった。


かつての賑わいを感じさせる建物は、今では廃墟となり、誰もいないゴーストタウンになっていた。


砂埃にまみれた木造の建物。ひび割れた窓。今にも崩れそうな労働者たちの宿舎。


レオンはゆっくりとバイクを停める。


「ここが……」


エミリーは静かにバイクから降りると、周囲を見渡しながら語り始めた。


「昔はゴールドラッシュで賑わっていたの。でもある日を境に、突然採掘の質が落ちて、その後しばらくして鉱山は閉山。あっという間に町からは人が消えてしまったのよ」


レオンは廃墟となった建物を見つめながら、エミリーの話を聞いた。


「市街地から離れていたせいで、荒らされることもなく、そのまま朽ちていった……だから、こうしてまるでタイムスリップしたように町が残ってるの」


確かにこの町には、不思議な美しさがあった。


廃墟のはずなのに、まるで映画のセットのように保存されている。


「住民たちは移住費用を潤沢にもらったらしく、家財道具なんかもそのまま置いていったみたい。だから、この町の家々の中には、日常の痕跡がそのまま残ってるわ」


レオンはしばらく黙って町を見渡していた。


「まるで時間が止まったみたいだな……」


そして、ふと気になってエミリーに問いかける。


「なんで突如採掘の質が落ちたんだろう?」


エミリーは少し考えたあと、静かに答えた。


「事故よ……鉱山で落盤事故があって、それ以来採掘量が急に落ちたの。みんな突然金が採れなくなったことで諦めて、町も閉鎖されたって聞いてるわ」


レオンは腕を組みながらその言葉を反芻した。


「それが本当なら……その事故は怪しいな」


鉱山の閉山が単なる自然の運命なのか、それとも別の要因があったのか――。


「鉱山会社の事務所に行って、何か手がかりがないか調べないか?」


レオンがそう提案すると、エミリーもすぐに同意する。


2人は廃町の奥へと進み、鉱山会社の事務所を探し始めた。


レオンとエミリーは再びバイクに跨ると、荒れ果てた町の中心へ向かった。


道は舗装されておらず、砂と石が混じった荒れた地面が広がっている。バイクのタイヤが細かい砂利を踏みしめる音だけが、静寂の中で響いた。


まるで時代に取り残されたかのようなこの町は、すべてが**一時停止**したような感覚を与える。


町の広場に近づくと、すぐに目に入ったのは、かつて訪れた者を歓迎したであろう**大きな案内板**だった。


そこには、色褪せた文字でこう書かれていた――


**「ようこそ…」**


しかし、その言葉は今や虚しく、誰も迎える者はいない。


広場の中心には風にさらされた建物が並び、かつての賑わいの残骸が沈黙の中に佇んでいる。


**鉱山会社の事務所を探す**


2人は案内板の前で足を止め、その表面をじっくりと見つめた。


「町の見取り図があるみたいね……」


エミリーが案内板に描かれた町の見取り図を指でなぞる。


色褪せ、風雨にさらされたせいで、文字や線の多くが判読しづらくなっていたが、かすかに読み取れる部分がある。


レオンはエミリーの横に立ち、一緒に目を凝らした。


「鉱山会社……どこかに記載があるはずだ」


彼がそう言った瞬間、エミリーが見取り図の一角を指さした。


「……あった!この場所、たぶん鉱山会社の事務所じゃない?」


見取り図のかすれた文字の中に、鉱山会社の名らしきものが書かれていた。


それが示している建物の位置を確認すると、町の中心から少し離れた丘の上にあることが分かった。


管理する側が採掘現場を見渡せるように、そして鉱山労働者の動きを監視できるように設計されたのだろう。


レオンはその方向を見据え、ニヤリと笑う。


「OK、じゃ秘密を暴きに行こうか!」


彼はアクセルを軽く回し、エミリーはバイクの後ろでしっかりと身を構える。


そして、2人は鉱山会社の事務所へと向かい、そこに隠された真実を探ることになる――。

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