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嘘をつけないヒトラー

作者: 宇占海

場所

 1930年代、ナチス最盛期のドイツ


登場人物

 ヒトラー  ドイツ国総統

 ヘス    副総統

 ゲーリング 国家元帥

 ヒトラーの演説を聞く聴衆たち



第一幕 ヒトラー総統の部屋

(ヒトラー、ヘス登場)


ヘス 総統、もうすぐ演説会の時間です。


ヒトラー うむ。

 ヘス。すまないが風邪薬を持ってきてくれないか?

 ちょっと風邪をひいたようだ。


ヘス はい、どうぞ。


(ヘス、ヒトラーに薬を渡す。

 ヒトラー、薬を飲む。)


ヒトラー ありがとう。

 それじゃ、演説会に行ってくる。


ヘス 行ってらっしゃいませ。


(ヒトラー退場。ゲーリング登場。)


ゲーリング おい、今、総統に何の薬を渡したんだ?


ヘス 何の薬って、風邪薬ですが・・・。


ゲーリング 風邪薬・・・大変だ!

 今のは風邪薬じゃない!

 嘘をつけなくなる薬だ!


ヘス 嘘をつけなくなる薬?


ゲーリング そうだ!

 あの薬を飲んだら

 本当のことしか言えなくなるんだ!


ヘス 大変だ!総統はこれから演説会ですよ!


ゲーリング 今の総統に演説させちゃ駄目だ!

 早く止めろ! 急げ!


(ゲーリング、ヘス、あわてふためいて退場)



第二幕 演説会場

(ヒトラー、聴衆登場)


ヒトラー ドイツ国民諸君!

 今日は面白いことを諸君にお知らせしましょう!


 私はいつも、

「ユダヤ人は劣等民族だ」と言ってますね?

「ユダヤ人が諸悪の元凶だから、

 奴らを叩き出せば問題は解決する」

とも言ってますよね?


 皆さん分かってると思いますが、

あれは全部ウソです。

 ん?

 なんでみんな意外な顔してるんですか?

 まさか本気で信じてるんですか?

 ユダヤ人が劣等民族だって?


 あのですね、

アーリア人もユダヤ人も同じ人間なんだから、

そんな違いがあるわけない。

 そんなの当たり前でしょう。


「ユダヤ人を叩き出せば、

 問題は解決する」

っていうのも、もちろんウソです。


 我々は政権を取ってから、公約どおり

ユダヤ人を叩き出しました。

 それで、何か良いことがありましたか?

 何も無いでしょう?


 あなた方有権者は、

私たちナチスと一緒に

ユダヤ人に石を投げてリンチを加えて、

大いに盛り上がってましたね。

 でも、それだけのことです。


 その時だけ「ざまあみろ」と言って

溜飲を下げる。

 それだけの意味しか無いのです。

 何のメリットもありません。


 もっとも、心配することはありません。

 私たちはこれから各地に強制収容所を造って、ユダヤ人を皆殺しにします。何万人でも殺します。


 近い将来我が国は、

史上最悪の大虐殺をやった国家という、

拭いがたい汚名を

未来永劫背負うことになるでしょう。


 しかし、

私たちが過激な言動をすればするほど、

あなた方有権者は喜んで私たちを支持してくれるわけですからね。


 有権者を騙すなんて簡単ですよ。本当に。


 皆さんにはこれからも、

私たちの扇動に簡単に乗るような、

アホでチョロい有権者でいていただきたいと、

切に願っているものであります。



 あっ、物を投げないでください!

 皆さん、落ち着いて、落ち着いて!


聴衆A これが落ち着いていられるか!


聴衆B ふざけるな、ペテン師!


聴衆C 引っ込め、人殺し!


(聴衆、怒号を上げてヒトラーに物を投げ、会場は大混乱になる。

 そこへゲーリング、ヘス登場。)


ゲーリング ああ、遅かったか。


ヘス どうしよう。


ゲーリング 知らない!どうなっても知らない!


ヒトラー ヘス!なんてことしてくれたんだ!


ヘス 私じゃない!総統が自分でしゃべったんじゃないですか!


ヒトラー ていうかゲーリング!

 新兵器の開発をするのは良いが、

「本当のことしか言えなくなる薬」なんて

開発する必要があったのか?

 あったとしても、

それを私の部屋に持ってくる必要が

あったのか?


ゲーリング え?それは、そのあの・・・。


(了)

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― 新着の感想 ―
 この男がやったことがどれほどの犠牲者を出し、未だに世界に尾を引いているかを考えると、全く、こういう展開であったらどれだけ良かったろうかと思わずにはいられません。自己陶酔的人物の常套手段である、「自分…
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