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児童文学

悪いどころか

作者: 空見タイガ

 あるところに悪いところがありました。ミミもミミのお友だちも行ったことはありません。

 大人たちがこう言うからです。

「あそこはとても悪いところ。悪いところに近づいてはだめだよ」

 そんなボンヤリした言葉で、ミミとそのお友だちのヨキの冒険心を止められるでしょうか? いいえ、まったく。

 ミミの庭にある犬小屋のうらはふたりのひみつきちです。こそこそ、こそこそ……。

「この前ね、お母さんが『食べ過ぎるとからだに悪い』って、甘いお団子をひとりじめしたの」とミミ。

「悪いは甘い」とヨキ。

「お父さんも『やりすぎると目に悪い』って、テレビゲームをひとりじめしたの」とミミ。

「悪いは楽しい」とヨキ。

 大人たちは平気でうそをつく。だから悪いところだって――ふたりの空想はわくわくと広がっていきます。悪いところはどんなところ、きれいなところ、美しいところ、かわいいところ、かっこいいところ、遊べるところ、だれとも分かち合いたくないような、自分へのごほうびのようなところ。

 よく知らないものにあこがれてしまうのはふしぎなことではありません。

 ある晴れた日のことです。ふたりは庭から抜け出して、悪いところに行きました。

 そこは歩いて行ける近くの公園でした。

 悪いところはさびしいところでした。さらに汚いところでもあるとわかりました。いたるところにごみが落ちているのです。

 滑り台の階段には一段ずつお菓子のごみが落ちていました。

 ベンチにはストローのごみが落ちていました。周りは落ち葉でいっぱいです。

 ブランコには座るところがありませんでした。見上げると、ブランコの上のほうに座るところがぐるぐると巻きつけてありました。

 ふたりはがっかりしました。

「待って!」

 とぼとぼと帰ろうとするふたりに、だれかが声をかけました。きょろきょろ。ミミとヨキの知らないお友だちの声です。

 いったいどなたなんでしょう?

「ここだよ、ここ」

 ふたりは公園を歩き回りました。滑り台、ベンチ、そしてブランコ。どこにもだれもいません。ふたりはこわくなりました。

「だ、だれですか」とヨキ。

「食べないでください」とミミ。

「わたしは悪いところです」と悪いところ。

 ふたりは顔を見合わせました。

 そうです。ふたりを呼び止めたのは、なんと悪いところだったのです。

「ねえねえ、もっと遊んでいきましょうよ」

 ミミはおずおずと答えました。

「なんか、うすきみわるいから、むり……」

「そんな」と悲しそうな声の悪いところ。

「ここは悪いところらしいし……」とヨキ。

「悪いどころか! ここはとても良いところなんです。すてきな公園なんですよ」

「それはジガジサンと言うんだよ」と両手で自分のひじを何度もさするミミ。

「ごみ置き場だよ」と眉をひそめるヨキ。

 わるいところはおいおいと泣きました。

「ほんとうに良いところだったんです。だけど、悪いひとたちが集まったせいで、悪いところだとうわさされて、そのうちほんとうに悪いところになってしまったんです」

 ミミとヨキは悪いところをかわいそうに思いました。いったいどうすれば悪いところを元の良いところに戻せるのでしょうか?

「ごみがなくなったら、ごみ置き場ではなくなるかもね」と足下にある缶を拾うヨキ。

「だれもごみを捨てなくなったら良いところになるかも」と足下にある袋を拾うミミ。

 ふたりは近くのごみを拾って公園のごみ箱に捨てました。やがて、どちらがごみを多く捨てられるかを競いはじめ、ミミとヨキは公園のすみずみまでごみを拾いました。ごみ箱はもうパンパンです。

「ありがとう、ありがとう……!」

 元・悪いところにお礼を言われて、ミミとヨキはすがすがしい気持ちになりました。

 でも……ふたりはブランコを見上げました。座るところには届きそうにありません。

「ブランコで遊べない公園なんて!」とヨキは長いためいきをつきました。

「それならお任せください。落ちているごみがなくなって、とても元気が出たんです」

 ドゴゴゴゴ。大きな地鳴りです。ミミとヨキはすぐにしゃがみました。なんと元・悪いところの上下がぐるぐると何度もひっくり返りはじめたのです。ふたりは目を回しました。

 このまま、空に落っこちてしまいそう!

 地鳴りがおさまりました。ふたりが目をおそるおそる開けると、ブランコの座るところがきちんと鎖でぶら下がっていて、先ほどまでだれかが遊んでいたみたいに、ぶらんぶらんとゆれていました。

「ほら、とても良いところでしょう!」

 ふたりはふらつきながら立ち上がり、あらためて公園を見回しました。ベンチも滑り台もブランコもある、のどかな公園です。

 ごくふつうの公園? いいえ、違います。ミミとヨキのような良いひとたちがいるところは良いところなのです。

 そしてあるところを良いところにするひとたちこそが良いひとたちなのです。

「さあさあ、もっと遊んでいきましょう!」

 ミミはぐったりと答えました。

「お掃除でつかれたから今日は帰るね」

「そんな」と悲しそうな声の良いところ。

 まあまあ、そんなにがっかりしないで。ふたりの帰りのあいさつを聞いてください。

「また明日!」

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