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名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~  作者: Rohdea


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25. 見苦しい人達

 


「あぁぁあぁあ!?」


 アレクが私のヴェールを取って顔を晒した時、尋常ではない悲鳴が会場内響いた。

 もちろん、その声を発したのは目の前で真っ青になっていた“ドロレス公爵令嬢”


「嘘っ! 嘘よ!! 何であんたが! そこにいるのよ!!」

「……」


 ますます、顔を青くして叫ぶ、ドロレス公爵令嬢のその様子に周囲も何事かと私の顔を見る。

 そして、私の顔を覗き込んだ者がそれぞれ大きく息を呑む。


「……え!?」

「似ている……?」

「どういうことだ!!」


(そんなに驚くほど私たち、似ているのかしら?)


 特に今日みたいにゴテゴテに着飾ってるドリーと比べてそう言われるのは、何だか複雑な気持ちにさせられる。


「皆、目がおかしいよね」

「?」


 アレクが私の横でとてもとても小さな声でそう呟く。

 どういう意味かと彼を見上げると、アレクは私の方を見ながら甘く微笑みながら言った。


「どこからどう見てもローラの方が美しくて綺麗で可憐で……この場にいる誰よりも可愛いじゃないか!」

「っっ!!」


 アレクのその言葉に私の顔がボンッと赤くなる。


(小声とはいえ、皆の前で何てことを言っているの!)


「そこでゴテゴテに着飾ってる女なんか足元にも及ばないよ」

「アレク……」


 私たちが見つめ合うと一瞬甘い空気が流れかけたけど、今はそういう場合じゃないとハッとする。

 

(い、いけない!)


 今は甘いムードにしている時ではない。

 私たちは無言で頷き合う。

 アレクとイチャイチャするのは全てが終わってからよ!


 気を取り直したアレクが再び冷たい視線をドリーに向ける。

 ドリーは未だに動揺していて「嘘よ、嘘……有り得ない」とうわ言の様に呟いている。


(叔父様たちも同じ顔をしているわね)


 彼らは、探しても探しても見つからない私をすっかり死んだ者とみなしていたに違いない。

 だからこそこうして現れて驚いている。


「……」


 私はすぅっと大きく息を吸って深呼吸をすると、一歩前に進み出る。

 そして、一礼してからしっかり顔を上げて会場の隅々まで届くように声を張り上げた。


「お騒がせして申し訳ございません……初めましての方とお久しぶりの方もいらっしゃると思いますが、私が本物の“ドロレス・サスビリティ”でございます」


 私のその言葉に会場内は騒然となる。

 顔立ちの似ている二人の令嬢がそれぞれ“ドロレス・サスビリティ”を名乗っているのだから当然だ。

 ドリーと叔父たちの顔色はどんどん悪くなっていく。


「この場を借りて告発させていただきます」


 私はにっこり笑って会場全体を見渡しながら言う。

 突然飛び出した“告発”なんて言葉に皆も唖然としていた。


「そちらにいる、先程まで“ドロレス・サスビリティ”を名乗っていた彼女は私の従姉妹、本当の名は“ドリー・ティナフレール”と言いまして、ティナフレール伯爵家の令嬢です」


 会場内は更に騒然となった。

 私はそのまま続ける。


「彼女は約五年間、私から全てを取り上げて自分こそが“ドロレス・サスビリティ”だと名乗っておりました」


 ますます人々が大きく騒ついた後、ヒソヒソ話が始まる。


 ──ティナフレール伯爵家の令嬢?

 ──身体が弱くて領地で静養しているという噂の?

 ──幼い頃は見かけていた気がしたけれど……そう言えば最近はさっぱり……


 そんな声がちらほら聞こえて来る。


 身体が弱くて領地で静養──……

 叔父たちはドリーをそうやって隠して、ドロレスへの乗っ取りを完了した辺りで病死とでも言って発表する気だったのかもしれない。


(……あ!)


 前に“私”が殺されたのはその意味もあったのだわ!

 叔父たちは死んだ私をドリーと言い張るつもりで……

 そして、娘のドリーを失った悲しみに姪の“ドロレス”を養女にでも仕立てあげて、サスビリティ公爵家を完全に手に入れる……


(本当にどこまでも腐った考えを持つ人達だわ)


「……か、勝手な事を言わないで! 私はドリー・ティナフレールなんかじゃ……!」


 ドリーは見苦しくもそう叫ぶけれど、「もう遅い」という事が全然分かっていない。

 本物のドロレスである私を見た瞬間に取り乱した時点で、ドリーの被っていた“ドロレス・サスビリティ”の仮面は剥がれていたというのに。


(なるほど……アレクはその反応を狙って私にヴェールを被せたのね……?)


 会場に入る直前に突然アレクからヴェールを渡されて「申し訳ないけど、これを被って入場してくれないか? すぐに脱ぐ事にはなるから」と言われた時は何事かと思ったけれど。


「叔父様、叔母様。そんな後方で素敵な顔色で固まっていないでそろそろ出て来たらどうですか? あなた方の可愛い娘、ドリーが青白い顔で震えておりますわよ?」


 私はわざと挑発するような口調で言った。

 その言葉にカチンと来たのか叔父がこちらに向かって声を荒らげて反発した。


「デ、デタラメを言うな! 私の娘のドリーは伯爵家の領地にいる! そして、こちらにいるのは兄上の忘れ形見の“ドロレス”だ」


 さすが叔父。

 簡単に認めようとはしない。


「貴様のせいで可哀想にもドロレスが震えているではないか……偽者は貴様だ! アレクサンドル殿下を誑かしてドロレスと婚約破棄をさせて皆を騙そうとしているのだろう!!」

「……」


 そんな簡単に折れる性格ではないと思ってはいたけれど、やっぱり見苦しくも反論してくるのね。

 叔父は今ここで“ドリー”が伯爵家の領地にいるかどうかを明らかには出来ないと分かっているから堂々とハッタリを言っている。

 案外、替え玉くらい置いているのかもしれない。


「皆、騙されるな! そこの女はドロレスを偽物に仕立てあげようとしているただの悪女だ! ドロレスに成り代わって再度、何事も無かったように殿下と再婚約を結ぶつもりなんだろう!?」


 叔父の叫びは続く。


「殿下! 目を覚まして先程の婚約破棄発言も撤回して下さい! 本物のドロレスはあなたの横にいる女じゃありません!」

「そこまで言うなら、そちらの女が本物のドロレスであるという証拠を見せてもらおうか?」


 少しの間、私の横で沈黙していたアレクが口を開く。

 その声は酷く冷たい。


「証拠……ですか?」

「ああ。そちらの女が本物で、僕の隣にいる彼女が偽者だという証拠だよ」

「……っ」

「貴殿の言う通り、僕は誰もが認める“本物”のドロレス・サスビリティ公爵令嬢と再婚約を結ばないといけないのでね」


 アレクのその言葉に叔父はニヤリと笑う。


「それならば、殿下。こちらの“ドロレス”の胸元に光るネックレスを見てください」

「……」


 そう言って叔父はドリーの隣に立つと、ドリーの着けているネックレスを指さした。


「このネックレスに、使われているのは代々サスビリティ公爵家に伝わる宝石です。兄上達は亡くなる前に娘である()()()()()()()()にこの宝石を託していたのです!」

「……」

「元々はブローチにして義姉上が着けていたようですが、ネックレスに加工させて持たせてあります! この宝石を持つ者こそ、正当なサスビリティ公爵家の後継者! 兄上の娘である証拠ですとも!」


 叔父はまたしても堂々とハッタリを言っている。

 ダミーの宝石を手に入れて、しかも、ネックレスに加工し直している辺りがもう……


(本物は私が持っていると知らないから……)


 叔父たちは本物の宝石……ブローチは事故と共に行方不明になったと信じているのだろう。


「へぇ、不思議だね」

「は?」

「僕の可愛い彼女も、その宝石を持っているんだけど? それもブローチとしての形でね」

「っっ!?」


 叔父たちが一瞬ぎょっとした顔で私を見た。

 だけど、すかさずドリーが私を睨みながら叫んだ。


「……に、偽物よ! そっちの女が持ってる物が偽物に決まってる! 私が引き継いだこれこそが本物なのよ!!」

「そうだ! さすが贋物の女はやる事が姑息だな。まさか、わざわざ偽物をブローチの形にして本物だと主張するとは!」


 彼らはあくまでも譲らないらしい。


「困ったなぁ……どっちが本物なんだろう」

「殿下! そんなの決まっています! 当然、我らの物が……」


 わざと困った振りをしたアレクに向かって叔父は堂々と主張しようとした。

 けれど、次のアレクの言葉に一瞬で顔色が変わった。


「そうそう知っているかい? サスビリティ公爵家に代々伝わるその宝石は、ちょっと特殊なんだよ」

「は……?」

「今回のように偽物が紛れ込むと困るだろう? だから、ちゃんと“本物”が分かるようになっているんだ」

「……は?」

「他でもない、公爵家の正当な後継者の手によってね」


 アレクはとてもとてもいい笑顔でそう言った。



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