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19. 王宮に移動します

 


「……あの、アレク。ほ、本当に大丈夫……なのかしら?」

「大丈夫だよ」


 アレクから自身の正体と愛の告白を受けた翌日。

 私はお店兼宿から出ることになり、今は部屋を片付けながら荷物をまとめてカバンに詰めている。


「でも、今の私はただの“ローラ”なので、王宮に入るのはどうかと思うわ?」


 アレク曰く、自分の正体を明かしたから私を匿う予定だったこの宿にこれ以上滞在する必要はないとの事だけれど。

 しかし、次の行先が王宮だと聞くとさすがにそれは、と心配になった。


「でも、このままこの店でずっと働くのは危険だからね。王宮に身を移すのが一番安全だよ?」

「それは……」


 その通り。

 いつ公爵家の者がここに現れるかも分からない。


(それに、叔父と叔母が領地から戻ればもっと捜索の手は伸びるかもしれない)


 私がグルグルと色々考えているとアレクが悲しそうな顔をして言った。


「せっかくローラが生き生きと楽しそうに働いているのに……それを奪う様な形になって、ごめん」

「アレク……!」


 私は首を横に振る。


「それは……仕方のないことですから」

「ローラ……」


 短い間だったけれど、色々貴重な経験になった事は間違いない。

 この時間を私に与えてくれてありがとう。

 そんな気持ちで微笑んだら、アレクも笑ってくれた。


「でも、全てを奪い返したら、また、働きたいわ……」


 私が小さくそう呟いたら、その声を拾ったアレクがうーんと悩まし気な顔で言う。


「許可はあげたいけど、ローラは僕との結婚が待ってるからね……落ち着くまでは難しそうかな」

「……ですよね──ん?」

 

 アレクがあまりにも自然にその言葉を口にしたので、思わず流しそうになった。

 だけど、ハッと気付く。


(……今!)


 動揺した私の口からはおかしな言葉が飛び出す。


「!! ……けっ! けけけけ、けっ……」

「……ローラ? 大丈夫? 不気味な笑い声みたいになってるけど、何かおかしかった?」

「違っ……わ、笑ったわけじゃないです!!」


(け……結婚!)


 そうだった!

 本当の私はアレクの婚約者!

 そして私はアレクが好きで、アレクも私の事が好きで……両想い!!

 

(つまり、全てを奪い返したら何の問題もないわけで───)

 

 私はアレクと……結婚……する。


「っっ!!」

「ローラ!?」


 意識したせいで、一気に顔が真っ赤になる。

 そんな私の突然の変化にアレクが戸惑いながら私を抱き寄せる。


「え? え? 大丈夫? 何で急にそんな真っ赤に? …………めちゃくちゃ可愛いけど」

「うぅ……」

「……ローラ……はっ! そうか。これは僕を誘っているのか。さすがローラだ。僕がローラのどんな所に弱くてメロメロなのか既に知っているんだね?」


 何かを勘違いしたアレクの瞳の奥に“欲望”という火が灯る。


「……え?」

「ありがとう。僕も愛してるよ、ローラ……」

「え、え?」


 そう言ったアレクは抱きしめていた腕に力を込めると、そのままそっと優しく私の唇を塞ぐ。


「ア、レク……」

「……ローラ」


 今は部屋の片付けの真っ最中でこんな事をしている場合では……ない。

 そう思うのに、大好きな人とするキスは甘くて蕩けそうな程、幸せで私の思考を奪ってゆく。


(ずっとアレクの側にいたい、ずっとこうしていたい)


 ギュッと私からも抱きしめ返すと、アレクの腕にもますます力が入る。


(すごい……全身で“愛してる”と伝えてくれているみたい)


「……好き」

「僕もだよ……」

「ん…………」


 結局、私たちは荷物整理もそこそこで、しばらく二人の時間に夢中になった。


(──私、アレクの“大丈夫”という言葉を信じるわ)


 こんな甘い時間に思考を奪われた私は、結局そのまま王宮に行くことが決定した。



 このすぐ後、私が王宮に向けて出発してから、再び公爵家の捜索がこの店と今度は宿の方にまで来たことを知るのは少し先の話となる──……



◇◆◇◆◇◆◇



「……!」


(懐かしい……)


 そうして、久しぶりに私は王宮へと到着する。

 アレクと共にいたからか特に私の素性は気にされることなく、なんの問題もなく王宮内へと入れてしまった。

 さすが、本物の王子様。


 そんな私がアレクのエスコートを受けて降り立ったあと、王宮を見て最初に感じたのは懐かしさだった。


(お父様と……そう、レックスとも遊んだ王宮……)


「ローラ?」

「あ、いえ、久しぶりにこんな格好で王宮に降り立ったことが不思議な気持ちで」


 私がそう口にするとアレクが、眩しそうに私のことを見つめた。


「すごくすごく可愛い。似合っているよ」

「……ありがとうございます」


 私が微笑み返すと、


「ローラが可愛すぎる……!!」

「アレク……」

「可愛い、可愛い、可愛い……僕のローラ」

「……っっ」


 アレクの“可愛い”口撃は今日も全然収まってくれなかった。


 実は、今日の為にとアレクは私にドレスを贈ってくれていた。

 そして、そのドレスを見るなり、何故か腕まくりを始めて目をキラッキラに輝かせたリュリュさんにこれでもかと綺麗にして貰い、今の私はどこからどう見ても“貴族令嬢”そのものの姿。


(似合っているなら良かった……)


 二人して照れながら見つめ合っていると、後ろから声がかかる。


「───殿下!」


(あ、この声は)


 前に公爵家で聞いたあの声……


「どうした? クォン」

「どうしたもこうしたも……主を迎えに来たらいけなかったですか?」

「そんな事はないが……」


 私はアレクの横で黙って二人の様子を見ている。


(くだけた喋り方……随分と気安い関係なのね?)


 そんな風に思いながら様子を見ていたら、クォン様と私の目が合った。

 彼はあの日、公爵家に訪問して来た時と変わっていない。


「サスビリテ……ドロレ……いや、ローラ嬢……ですか?」


 クォン様の発言からは苦悩が感じ取れた。


 サスビリティ公爵令嬢にドロレスにローラ。

 名前が多くてややこしくて何だか申し訳ない気持ちになる。


「どうぞ“ローラ”とお呼びくださいませ」

「ローラ嬢……」

「……やはり、貴女ですね」

「?」


 クォン様の言葉の意味が分からず、首を傾げていると彼は言う。


「自分の記憶していた、“ドロレス・サスビリティ公爵令嬢”は貴女です、ローラ嬢」

「!」


 その言葉に純粋に驚いた。


「お会いするのは子供の頃以来ですのに、私の事を覚えてらして?」

「ええ、やっぱり本物は違いますね…………美しいです。そして殿下ととてもお似合いです」


(お似合い!)


 その言葉に嬉しくて頬を染めていたら、後ろからアレクが私を抱きしめる。


「当然だ! 僕のローラほど、可愛くて綺麗で美しい人はいない!」

「主……そんな独占欲全開で……誰もあなたから取ったりしませんよ?」

「いいや! そんなこと分からないだろう?」

「いやいや、殿下。そんなあからさまに欲望剥き出しで、ローラ様にドン引きされても知りませ……」


 私が、アレクの温もりにうっとりしていると、会話の途中でこっちを見たクォン様が驚愕の表情を向ける。


「……えっ!? ローラ様、まさかドン引きしていない!?」

「ドン引き? 何の話ですか……?」

「……なっ! こんな激重の愛を向けられているのに!?」


 クォン様は大きな独り言で「そうか、これは本当にお似合いだ……」と呟く。

 そのまま頭を抱えて「しかし、これからは甘ったるそうな日々が続くのか!」とも呟いていた。


(……だから、何の話?)


 正直、意味が分からなかったけれど、お似合いといわれたのは嬉しかったのでニッコリ笑っておいた。



───



「えっ!?」


 その後、部屋を移動した私に向かって、クォン様が教えてくれたとある話に私は驚く。


「サスビリティ公爵家が落ちぶれている、ですか?」

「ええ、とうやらそのようです 」


 クォン様はニヤリとした笑いを見せる。

 なんて、黒い笑顔なの……


「ですから、ズタズタにするなら、やはり“ドロレス嬢”の社交界デビューの日が最適かと思いますよ?」

「!」


更にとても悪い顔をしながらそう言った。


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