表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/35

17. 名ばかり婚約者王子様の愛

 


 ───アレクサンドル・デュラミクス


 その名はどこからどう聞いても何度思い返してもドロレス()の名ばかり婚約者の王子様の名前だ。


(……あなただったの?)


 なぜか一度も会ってくれないし連絡もしてくれない。

 存在さえ怪しかった婚約者の王子様。

 高位貴族の息子どころじゃなかった。

 アレクこそが王子様だった───……



「ローラ……すごく驚いた顔をしている」

「だだだだだって……! アレクが……」


 こんなの驚かないはずがないじゃない!

 私は動揺が隠せない。

 真っ直ぐ彼の顔が見れない、

 そんなアレクは動揺している私の手を取ると、そっとそこに口付けを落とす。


(──っ!!)


 突然のその行動に私は声を失う。

 さらにアレクは畳み掛けるように続ける。


「僕は、君のことが好きだよ、ローラ。いや、ドロレス・サスビリティ公爵令嬢。僕の……婚約者」

「……っ!?」


 ガンッと頭を鈍器殴られたかのような衝撃を受けた。


(何故、その名前がアレクの口からローラの私に……?)


「ア、アレク……わ、私は」

「……ごめんね、ローラ。僕は全部知っている。気付いていたんだ」

「な、にを……」

「君が、“本物”のサスビリティ公爵令嬢のドロレスだってことだ」

「──っ!」


 再びの衝撃にもはや立っていられず、フラフラと倒れ込みそうになる私をアレクが支えてくれる。


「……ローラ!」

「……」

「立ったままする話じゃなかった……座ろうか」

「……」


 私は無言でコクリと頷く。

 そうして私達は一旦腰を下ろして話すことになった。

 けれど……


(あれ……??)


「…………アレクさん」

「うん?」

「体勢がおかしいです、密着……」

「?」


 私が後ろを振り返って訊ねると、アレクはきょとんとした顔を私に向けた。

 なぜ、そんな不思議そうな顔をするのかさっぱり私には分からない。


「えっと、では何故、私はあなたに後ろから抱き抱えられて座っているのでしょう?」


 アレクの反応から変化球で質問を投げては駄目なのだと悟った私は、直球で行くことにした。

 それを真正面から受け止めたアレクは至極真面目な表情のまま答える。


「……座っていてもローラが倒れたら危ないじゃないか! だから支えようと思った」

「あ、ぶ……ない?」

「そうだよ。それに、更に言うならもっとこうしてローラに触れていたい!」

「……!!」


(……直球が返って来たーー!)


 こんなに密着したら、私の心臓の音が伝わってしまいそうで聞いただけだったのに!

 ますますドキドキさせられる結果になっただけだった。


「ローラ、話を戻そう。あ、ローラでいい?」

「……ローラがいいです」

「分かった、ローラ」


 ローラと呼ぶアレクの声は優しかった。



───



「───知っていた、と言っても気付いたのは最近なんだ」

「え?」

「ローラも分かってると思うけれど、僕たちは婚約者同士だけど会っていなかったから」

「……」


 ここで、どうして会ってくれなかったの? 連絡もくれなかったの?

 そう訊ねてアレクを責めるのは簡単。

 でも、私は分かってしまった。


(あの発作……アレクは……いえ、アレクサンドル殿下は連絡したくても出来なかったんだわ)


 ドロレスの事が嫌だったわけでも、疎んでいたわけでも、興味がなかったわけでも無かった。


「……いつからですか?」

「え? ああ、僕がローラの境遇に気付いたのが?」

「違います! アレク……あなたの病気です」

「!」


 私のその言葉にアレクが息を呑んだのが分かる。

 そして小さく「そっちか……」と呟いた。

 だって、私はとにかくアレクのことが知りたかった。


「……生まれつき……かな」


 アレクが寂しそうな声でそっと答える。


「お医者様は何て言っているのですか……?」

「んー……僕のこれはちょっと特殊なんだ。普通の病気とは違う。だから、医師に診せても決して良くはならない」

「え……?」


 そう言いながら、アレクが後ろからギュッと私を抱きしめる。


「ずっと思うように身体が動かなくて、結果としてローラ……ドロレス嬢を放置することになってしまった。本当にごめん」

「そんな!」

「サスビリティ公爵……君のお父上は知っていたけれど、ローラには話さなかったんだろう?」

「…………何も聞いていなかったです」


(お父様!! どうして!)


 あぁ、でも、はっきり教えてはくれなかったけれど、示唆するような事は言っていた。


 ───いいかい? ローラ。アレクサンドル殿下はとてもとても重い物を背負っているんだ

 ───ローラは一緒にその荷物を持ってあげられるかい?


(あれはきっと……このことだった!)


「そんな事情もあり、僕は何も知らずに長年……そして特にこの五年間は……」

「アレク……」


 私は耐えきれずに後ろを振り向いてアレクをギュッと抱きしめる。

 アレクが動揺した。


「ロ、ローラ!?」

「わ、私のことなんて! あ、あなた自身の長年の苦しみに……比べたら……」

「ローラ……」


 泣く資格なんてないのに、勝手にどんどん涙が溢れてくる。


「そんなことはないよ。ローラはあんな奴らに名前も居場所も奪われてるんだよ? ローラだって苦しんでいるじゃないか! それに僕は……」

「…………僕は?」


 私が聞き返すと、アレクは優しく笑う。

 どうしてそんな笑顔で笑えるの?

 生まれつきなら二十年も苦しんで生きて来ているというのに……


「何で笑えるかって? それは僕のこれまでが悪いことばかりじゃなかったからだよ」

「……? そ」

「ローラ、好きだ」


 その言葉の意味を聞こうと思ったのに、アレクの愛の言葉が真っ直ぐ降って来る。


「ローラでも、ドロレスでも……名前なんてどちらでも構わない。今、僕の目の前にいる君が好きだよ」

「アレク……」

「君がいてくれれば……」


 アレクはそう言って私の頬に手を添えて、私の涙をそっと拭う。


「……」

「……」


 そうして無言で見つめ合った私達は、どちらからともなく顔を近づけ、そっと互いの唇を重ねる。


(……甘い、そして……とっても幸せな気持ち)


 そう感じるのは───私もアレクの事が…………好きだから。

 ようやく、ずっとこんなにドキドキしていた理由に気付いた。


「……」


 すぐに離れてしまった幸せな温もりを残念に思っていると、アレクは私を熱っぽい目で見つめる。

 そして私の耳元で甘く囁く。


「ローラ……その顔は、もっとしたい……であっている?」

「っっ!」

「……あはは、その顔。やっぱりローラは可愛い。すごくすごく可愛い」


 アレクは一瞬で顔が赤くなった私の反応を見ると、笑いながらもう一度顔を近付けて来て、優しい優しいキスをした。


「……」

「……んっ」


 アレクからのたくさんの甘いキスを受けながら、私は思う。

 私はこの為に死に戻って来たのかもしれない、と。


(このままドリーなんかにアレクは渡せない、渡したくない!)


「ア、レク……」

「うん?」


 アレクは全然キスをやめてくれない。

 唇が解放されても他のあちこちにたくさんキスをしてくる。

 私はそんなキスの猛攻撃を受けながら伝える。


「お父様……言っていた……」

「え?」

「アレク……重い物……背負っている」


 チュッ


「んっ…………だから、私に一緒にその荷物を持てるか? ……って」

「……!」


 アレクはキス攻撃を一旦中断して驚いた顔をして私を見た。

 私はその揺れ動く金の瞳をしっかり見つめながら伝える。


「……私、その荷物、持ちたい。いえ、一緒に持たせて?」

「ローラ?」

「私じゃ頼りないかもしれないけれど……あなたが背負っている物を……どうか、私にも」

「……ローラ……」

「アレク!」


 感極まったアレクが力強く私を抱きしめる。

 私もしっかりと抱きしめ返した。


 アレクの温もりに包まれながら私は決意する。

 

 ───叔父に叔母……そして、ドリー……


 私の大事な人……アレクとこの先を生きていく為に、あなた達に奪われたモノ…………

 全て返してもらうわ!



 ……そして、そんな私の決意を表すかのように、胸元のブローチの石が微かに光っていた───……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ