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16. 彼の正体

 


 公爵家を出てから半月経ったことで、少しずつ自分の荷物が増えて来た。

 その整理をしながら、大事に仕舞いこんでいたあのブローチを、ふと思い立って自分の服につけてみた。


(不思議……やっぱり私の瞳の色と同じに見えるわ)


 そうして鏡に映った自分の瞳とブローチの宝石を比べている最中に、アレクが帰って来たのでそのまま彼を出迎えた。




「おか……は、母親の形見のブローチなの」


(ついついお母様……と言いかけてしまったけど、母親と言い換えたし……私の出自を疑われていないわよね?)


 アレクは私を平民だと思っているはず。

 平民はお母様なんてかしこまった呼び方はしないと聞いたわ。

 私は内心で焦りながら、そっとブローチに触れる。


(このブローチ……)


 これは家無し金無し訳ありの平民が持っているにしては、きっと相応しくない高価な物。

 色々、追求されたらどうしよう? もしくは盗んだと疑われて責められてしまう?

 そんな心配をしてしまう。


「いや、お母さんの形見か……それなら大事にしないといけないね」


(あ……)


 アレクの返答は私を追求するものでも無ければ責めるものでもなく、私の気持ちを汲んでくれる優しい言葉だった。

 アレクはそういう人だったと改めて実感したら胸がキュンとなったので、思わずはにかんだ。



(そういえば……)


 アレクは私に何の事情も聞かない。

 お腹を盛大に鳴らした私をここに連れて来てくれて、仕事を紹介してくれた時も理由を探りたいわけじゃないって言ってくれていた。


(本当のことを話すべき?)


 私は名前も何もかも奪われた公爵令嬢ですって。

 でも、その話をしたらアレクを公爵家の問題に巻き込むことになる。

 そう思うと踏ん切りがつかなかった。


「ローラ」

「?」


 グルグルとそんなことを頭の中で考えていたら、アレクが私の頭をそっと撫でる。


「助けを求めることは悪いことじゃないよ?」

「……え?」


 驚いた私が顔を上げてアレクを見上げると、バチッと目が合う。

 彼の綺麗な金色の瞳は優しく私を見ていた。


「ローラは僕を巻き込みたくないと思っているのかもしれないけど」

「!」

「言っただろう? 僕はローラを助けたい」

「……」


(アレク……!)


 私は動揺し戸惑ってしまうけれど、アレクはそのまま何でもないという様子で続ける。


「ローラもさ、薄々気付いてると思うんだけど」

「?」

「僕、実はさ……」

「……っ」


 何だかものすごく重要な話を言われるような気がした私はゴクリと唾を飲み込み、ドキドキしながらアレクの次の言葉を待った。


「こんなだけど、お金と権力だけはあるんだよね」

「…………」


 私は目を瞬かせる。

 お金……権力……


(───た、確かに!!)


 あの時、サラッと流してしまったけれど、アレクはこの店の最高経営責任者だと言っていた。

 ゴットンさんは自分の部下なのだと……

 よくよく考えたら、それってすごい事だわ。

 だって、見た目はそう私と変わらない歳なのに!

 え? あれ? それとも若く見えるだけで、実はアレクってうんと歳上……


 私がそんな(失礼なこと)を頭の中で思い浮かべた時だった。

 アレクがじとっとした目で私を見る。


「…………ローラ。僕はまだ二十歳なんだけど? 君、何か凄いことを考えてない?」

「!!」


(───若かった!!)


 三つしか変わらない! いえ、私はもうすぐ誕生日が来るから二つ?

 いいえ! それよりも何故、アレクは私の考えたことが分かったの!?

 ますます頭の中が混乱する。


「…………ローラ。君の顔にね、全部書いてあるんだよ」

「え!」

「今の君は“アレクって実は若作りしてるだけで、実はうんと歳上のおじさんなんじゃ?”って表情が言ってたよ」

「~~バレ……!?」

「うん、バレバレ」


 私がぎょっとした顔を見せると、アレクは苦笑した。


「あはは! ローラのそういう所、うん、やっぱり大好きだ」

「なっ……」

「本当に可愛い!」


 そんな恥ずかしくなる事を言いながら、ギューッと私を抱きしめて来るアレク。


「そうやって、くるくる変わる表情は、見ていて可愛いなってずっと思っているよ」

「は、恥ずかしいです……」

「何で? ローラはこんなに可愛いのに」

「うぅ……」


 アレクの発した言葉の“大好き”とか“可愛い”が頭の中で何度も繰り返される。

 とってもとっても恥ずかしい……

 でも……


(嬉しい)


 恥ずかしいけれど、嬉しい。


「……ローラ」


 アレクの手がそっと私の頬に触れる。

 その仕草だけでドキドキが止まらない。


「ローラ……亡くなった君の両親の分まで、僕は君を愛したい。いや、愛しているよ」

「……!」


 私は目を大きく見開いてアレクを凝視する。

 驚きすぎてうまく言葉が出ない。


(何で? どうして??)


 朝の、よ、よ、欲情している発言といい、こんなのまるで愛の告白……!

 人として好き……なんて意味にはとてもじゃないけれど聞こえない。


(それに……)


「……私、おか……母親が亡くなっている事はさっき口にしましたけど、おと……父親まで亡くなっているなんて言ってない……です、よ?」

「……」


(どうして?)


「アレク……あなたは」


 ───何者なの?

 そう問いたかったけれど、言葉が続かない。

 知りたいような知りたくないような……そして、知ってしまって今のこの関係が壊れるのが怖い……

 情けない事にそんな風に尻込みしてしまう。

 すると、アレクがすっと私から身体を離したと思ったらなんとその場で跪いた。

 その姿に私は慌てる。


「え? ちょっとアレク!? な、何をして……」

「アレクサンドル」


(────え?)


 空耳かと思った。

 でも、アレクは跪いた体勢のまま言葉を続ける。

 下を向いていて表情が見えないので私は戸惑う。


「アレク……」


 私の呼びかけにアレクが顔を上げる。

 その真剣な瞳と目が合った。


「ローラ。僕の本当の名は、アレクサンドル・デュラミクス、だ」

「……っ!? ま、待って? デュラミクスって……」

「……」


 デュラミクス───……それは、この国の名前じゃないの!!

 その名を名乗れる人なんて限られている。

 そして、今、アレクが口にした“アレクサンドル”

 その名前を繋げると、


 ───アレクサンドル・デュラミクス。


(う、嘘っ……!?)


 今まで一度も会ったことも無ければ、連絡取り合ったことも無かった、

 “ドロレス・サスビリティ公爵令嬢”の名ばかり婚約者の王子様の名前だ────……



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