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先生は幼女でした。

翌朝、時刻は八時過ぎ。

目が覚めた私は、顔を洗ってローブに着替えを済ませた。

ローブは思っていたよりも全然軽くて肌触りも良く、着心地満点だった。

改めて鏡の前で髪を整えた後、自分の姿を確認してみる。

それなりに似合っていると思う。たぶん。

「おはようですぞ。のどが渇いたので、水が飲みたいですぞ」

まだ眠そうな声のバルムが、そう言って洗面台に飛び乗ってきた。

バルムは小さな器を咥えていた。

これは昨日イリスが用意してくれた、バルムが水を飲むための器だ。

「はいどうぞ」

その器に水を入れて、バルムの前に置いてやった。

「ありがとうですぞ」

そう言って、器の水を飲むというか、ペロペロと舐め始めた。

バルムが水を飲み終え目もすっかり覚めた頃、イリスが朝食を運んできてくれた。

トーストにサラダ、何の卵か分からない目玉焼き、これまたなんだか分からない甘酸っぱいさわやかジュースと、シンプルなものだったがとても美味しく頂いた。

ちなみにバルムの朝食は燻製肉と果物だった。

食事の最中、イリスからアガレスの言伝を聞いた。

内容は魔法師団訪問についての時間だった。

9時には詰所に居るそうなので、都合のいい時に来てくれと。

いつでもいいと言ってくれてはいるが、あまり待たせるのも良くないと思い、朝食後少し休憩をとって時刻が9時を少し回った頃、私は魔法師団の詰所に向かう事にした。

もちろん、バルムも一緒に。

昨日、アガレスに貰った城内地図のおかげで、迷うことなく詰所の前にたどり着けた。

「ここだよね」

なんだかよく分からないが、緊張してきた。

特に人見知りって訳でもないけど、やはり初めての場所で初対面の人に会うというのは緊張してしまうものだ。

私は扉をノックして、声をかけた。

「すみません。どなたかいらっしゃいますか」

しばらくすると扉が開き、一人の青年が姿を見せた。

「勇者様ですね。お待ちしておりました。どうぞ中へ」

そう言って招き入れてくれた彼のある特徴に、どうしても私の視線は向いてしまう。

「ああ、気になりますか?」

視線に気が付いた青年が、自分の耳を指さしながら言った。

そう、彼の耳は尖っていた。

耳以外の容姿は人間とほぼ同じ、エルフというやつだろうか。

「ごめんなさい」

「構いません。初対面の方は大抵そうですから。どうぞ」

青年はそう言って笑って見せた。

やっぱりみんな気になるよね。

よかったよ、私だけじゃなくて。

青年の名前はディム、種族は私の予想通りエルフだが、文字にすると耳長族となるらしい。

本気と書いてマジと読むみたいな感じだね。

エルフは魔法に長けた種族みたいで、魔法師団の大半をエルフで占めているそうだ。

確かに何人か団員の人に挨拶したけど、みんなエルフだった。

「着きました。中で団長がお待ちです」

え?私の先生って、団長さんなの?

こんな魔法ど素人の私の指導をお願いしていいんだろうか。

「アズ様、勇者様をお連れしました」

ディムが扉をノックして団長さんに声をかけた。

「うむ。開いておるから入ってくるのじゃ」

言葉遣いに反して、声色はとても可愛いのだが。

「どうぞ」

ディムが扉を開けて、中に入るよう促した。

「失礼します」

扉をくぐった私の前に現れたのは、何とも可愛らしい幼女エルフ

「よく来たのじゃ、ワシは団長のアズという者じゃ。こう見えて、ミズキちゃんよりずっと年上じゃぞ」

その幼女エルは、自己紹介にの後に私の心を見透かしたかのような言葉を続けた。

こっちでもエルフが長命っていうのは一緒なのかな。

とにかく見た目に騙されちゃダメって事ね。

「はい、よろしくお願いします」

「そんなに固くならんでもよいのじゃ。ほれ、付いて来るのじゃ」

そう言ってアズは部屋の奥にある扉に向かった。

「ここでミズキちゃんの魔法訓練を行うのじゃ」

そう言って案内された部屋は、結構な広さだが窓も何もない、真っ白の殺風景なものだった。

「この部屋は、全体を結界で覆っているのじゃ」

「結界?」

「上級魔法でも傷ひとつつかない頑丈さを誇るのじゃ。間違って暴発してもこの部屋なら被害は出ないのじゃ」

暴発ってなんか怖い単語も聞こえたけど、ここなら思う存分魔法を試せるって事か。

まあ、私の場合は使い方を学ぶところからなんだけど。

「して、ミズキちゃんは魔法を使った経験が無いという事でいいのじゃな」

「はい」

「うむ。では魔力操作の基礎からじゃな」

「お願いします」

最初にアズから言われたのは、自分の魔力を感じ取れるようになる事だった。

まず、扱うべき力を自身で感じ取れないと、操作もへったくれも無いのだ。

だがこれがなかなかに難しい。

分からないものを感じ取れと言われても、どうしていいのかさっぱりだ。

しばらく一人であれやこれやと悪戦苦闘していると、見かねたアズが助け舟を出してくれた。

「わしの手に触れるのじゃ」

そう言って差し出されたアズの手に、自分の手を重ねた。

「少し魔力を送るのじゃ」

アズがそう言ってからしばらくすると、指先から何か暖かいものが流れ込んでくる感じがした。

「何か感じたのじゃ」

「あったかい何かが流れ込んでくるような」

「うむ、それが魔力じゃ」

「これが…」

「目を閉じて、その力の流れに集中するのじゃ」

アズはそう言って私の手を離した。

私はアズに言われた通り、目を閉じて感じた力の流れに集中した。

腕から流れ込んだ力は、全身を巡って大きな渦のようになっている。

「これが私の中にある魔力」

そうつぶやいて、私は目を開いた。

「わかったようじゃな」

アズがそう言って満足そうに頷いた。

「魔力とは血液と同じ、常に体の中を循環しているのじゃ」

確かに今も自分の体の中で、魔力が巡っているのを感じる。

「今度はその魔力をこれに注ぐのじゃ」

そう言ってアズは、白い石を取り出した。

「これは魔力制御の練習用に加工した魔石じゃ。こうして魔力を注ぐと」

石が光りだした。

「おお、光った」

「うむ。だが魔力の制御を誤ると」

アズが言った瞬間、石が目がくらむほどの激しい光を放った。

「ぬおー目があ、目があ」

突然の目くらましを食らった私は、そう言いながら悶絶した。

ちなみに、暇を持て余して部屋を駆け回っていたバルムもやられたようで、前足で器用に目を抑えながらのたうち回っている。

目くらましを放ったアズ当人はというと、どこから取り出したのかサングラスをかけて、目つぶしを回避していた。

「まったく、ひどい目にあったよ」

「まったくですぞ」

しばらくして視力が戻った私とガルムは、アズに視線で抗議した。

「そう睨むでない。魔力が少なければ光らんし、多すぎると今のようになる。魔力制御の初級編じゃ。ほれ、やってみるのじゃ」

アズがそう言って差し出した石を私は受け取った。

「自分の魔力を石に送り込むように、指先に集中させるのじゃ」

アズの助言通り、私は自分の中の魔力の流れを、指先に集まるように集中した。

すると程なくして、石がぼんやりと光りだした。

「…光った」

そう言ってアズの方を見ると、おもむろにサングラスをかけた。

さらに、いつの間にかアズに抱かれていたバルムにもサングラスをかけた。

ん?そんな眩しいほど光ってないけど、どゆこと?

「ミズキちゃん、何も考えずに魔力を流し続けたら、自滅するのじゃ」

アズが私の疑問に答えてくれた瞬間、私の目は再びやられた。

「ほれ、言わんこっちゃないのじゃ」

「ご主人、失敗は成功の基ですぞ」

言わんこっちゃないって、それなら早く言ってよ。

バルムも間違ってはいないけど、その励ましはなんか悲しい。

アズによると、どうやら今のは石に注ぐ魔力が、徐々に強くなっていたかららしい。

丁度いい光を保つには、それに合った強さをの魔力を送り続ける必要があるそうだ。

だからそういう説明は先にしてよ…

その後何度か自滅しつつも、私は一定強さを保つ感覚をつかんだ。

「うむ。初日にしては上出来なのじゃ」

先生にお褒めの言葉をいただいて、今日の訓練は終了となった。

今後は先生の都合も考えて、毎週赤と黄の日に訓練を見てもらう事となった。

アズの団長という役職も考えて、忙しいようなら別の団員の方に見てもらっても私はいいと言ったのだが

『こんな面白い事を他の者にやらせるなどもったいないのじゃ』

となんだかよく分からない理由で却下された。

面白いって、まあ今日は確かに何度か失敗もあったけどさ。

そんな訳で、私は今後もアズ先生に魔法を習う事になった。

余談だが、魔法師団内のにバルム人気が凄まじかった。

エルフの中には、霊獣を神と同等に崇める者も少なくないようで、訓練を終えて部屋を出ると大勢の団員に囲まれた。

中には本当に神に祈るように、バルムを拝む者もいた。

当のバルムは、声をかけてきた団員たちに対して、照れ臭そうに『わん』と答えていた。

意外と照れ屋さんなんだね、バルムは。

まあ、私も祈られたりしたら戸惑うだろうけど。

そんな事もあった魔法師団の詰所を後にして、私達は部屋に戻ることにした。

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