夢
「ううっ…」「…」「んっ?」
「ペロペロペロっ?」
いつのまにか、犬用のゲージから飛び出していた
ボーダーコリーの小結が、布団の上に乗り、
佳文の顔を舐めまわしていた。
「小結…おまえは…」
部屋の灯りを点け、ゲージを見ながら
「もう…ゲージで寝かせるのはムリだな…」
佳文の相棒のボーダーコリーは、もう生後半年を過ぎ
60㎝程の高さのゲージでは、難なく飛び越えるようになっていた。
「う~ん…ただな…君は…何もかも噛んでしまうからな…」
ボーダーコリーの小結の歯は、生え変わりの真っ最中で、
硬い物・軟らかい物なんでも全てを噛んでしまうのだった。
そのせいで、家具の取手・椅子の脚・布団の角など、
程よく口に入る物全てが、見事に消え去ったり、
ほんの少しだけ残骸が残っているだけだった。
「小結…ちょっとおいで!!」
佳文は、ボーダーコリーの小結を布団の上に呼んだ。
呼ばれた小結は、嬉しそうに尻尾を振りながら、
匍匐前進で、布団の上を滑りながら近づいて来た。
「あかん…可愛過ぎる…」
近くに来ると、小結の舌は、「べろん」と口から出ていた。
「まぁ…決められて場所で、排泄するし…」
ボーダーコリーの小結は、一時期、お楚々をしていたが、
二日もしないで、お楚々をしなくなっていた。
「ただな…破壊王がな…」
辺りの物の角と布団を見て、「う~ん」と唸った。
「ちょいと、口の中を見せてみ」
そう言い、小結の両唇に指を置いて、唇をずらし、「むにゅ」っと開いた。
「う~ん…もう歯も生えそろってきてるし…いいか…」と
安易な考えで家の中をフリー状態にした。
その日は、フリー状態になったのが嬉しくて、
小結は、数十分寝ないで布団の上で暴れていた。
「ちょっと…寝れないから」と言う佳文の言葉に、ボーダーコリーの小結は、更に興奮した。
しかし時間が経つにつれて、小結も眠くなり二人は、ゆっくりと眠りに就いた。
「ううっ…」佳文は、夢を見ていた。
「ここは…どこだ…」
竹藪が両サイドから道を覆っていた。
風が吹く度に、竹が軋み「ギィィっ」と鳴り、竹の枝葉が擦れ合い「ざざざーっ」と音がした。
「暗いな…」その場所は、竹藪の中を通る細い道で、
下草は、生え放題で、昼の時間も薄暗かった。
「俺…何をしにココへ来たんだ…」
そう思った時、竹藪が、ざわつき人の様なモノが竹藪の中から飛び出した。
「うわっ!!」と叫び、佳文は目を覚ました。
「夢か…」「いや…この夢を見たのは…何度目だ?」
この夢を見るのは、記憶にあるだけで、5回は見ている夢だった。
「何時だ?」枕元をまさぐり、スマホを探し見つけ、スマホの電源を入れた。
「…まだ、4時か…」
ボーダーコリーの小結は、佳文が起きても気が付かず、
佳文の脚の間に身体を埋め眠っていた。
「かっ…可愛い…けど…膝と太ももが…痛い…」
その痛みを我慢して、佳文は、再び眠りについた。
朝になり、佳文は目を覚ました。「あぁ…眠い…」
そう思いながらも、起き上がった。
「あれっ?小結は?」と探すと、ゲージの柵を飛び越え、
また、ゲージの中で眠っていた。
「おぃおぃ…可愛過ぎだろ…」
布団から出て、小結のご飯を用意していると、
「ガタガタガタ」と音がして、佳文が音をした方を見ると、
小結は、ゲージを飛び越える最中だった。
ドックフードを器に移し、ぬるま湯を加えて、小結の朝ごはんが完成した。
「はい、お座り!!」いつものように、「待て!!」と言ってから、
用意した朝ごはんを与えた。
小結は、お座りも待てもできる、良い子だった。
「さぁて、お散歩しようか~」と言い
佳文と小結は、玄関に向いボーダーコリーの小結に首輪とリードを付けた。
佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し張り付けた髪の毛を剥がし
ドアを開けて外へ出た。
玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き
ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し、貼り付け外へ出た。
「今日は、ちょっとお出かけするから、散歩は短めな」
佳文は、小結に声をかけ、いつもの半分の行程を歩き自宅に着いた。
玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し抜いた髪の毛を貼り付け、小結の顔と身体と脚を拭き、
玄関を上がり、ソファに座った。
少し休憩し、小結のうんち袋、おやつ、ペットボトルに入った水に、
水の器を用意し鞄に入れた。
「お出かけするよ~」と声をかけると、
ソファの上で眠っていた小結は、「むくっ」と起きた。
首輪とリードを付けて、玄関に歩いた。
佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し張り付けた髪の毛を剥がし
ドアを開けて外へ出た。
玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き
ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し、貼り付け外へ出た。
車の鍵を開け、荷室のドアを開き移動用の犬のゲージを開き、
ボーダーコリーの小結を、ゲージに入れゲージの扉を閉め荷室のドアも閉めた。
運転席のドアを開き、運転席に座りドアを閉め、
イグニッションキーを回し車のエンジンを始動した。
車のエンジンを始動させると、小結は、少し暴れたが直ぐに、おとなしくなった。
大通りに出て、信号で止まったついでに、荷室にあるゲージの中の小結の様子を見た。
「おとなしく寝てるな~」
静かに眠っている様子だった。
「後部座席を倒して置いて正解だったな」
前日の夜、佳文は、車の後部座席の背もたれを前に倒して、
ゲージの中を見られるようにしていたのだ。
おとなしく寝ている、小結だったが、信号で停止や発進、
それに道路の段差の衝撃では、「むくっ」と起き上がっていた。
自宅から20分程、車を走らせると、目的地に到着した。
そこは、河川敷に作られた、キレイに舗装された道で散歩もできる公園だった。
駐車場に車を止めて、公園の中を見渡すと、
犬を連れた家族連れやカップルも多く遊びに来ていた。
「へぇ…犬を連れた人も多いな」
佳文は、車を降り車の後ろへ回り、荷室のドアを開けた。
「小結、遊ぼうか~」と声をかけ、ゲージの扉を開き、
首輪とリードを付けて、ゲージから出て来た小結を抱き上げ、
駐車場のアスファルト舗装の上に置いた。
そのまま、走り出そうとした小結をなだめ、荷室に置いた鞄を取り、
荷室のドアを閉め、車の鍵を閉め、。
「とりあえず、公園を周回してみようか」と小結に声をかけ、
佳文と小結は、歩き出した。
半周程歩くと、車を止めた駐車場の入口に着いた。
駐車場に止まる、佳史の車を見つけた小結は、車に向かって走ろうとした。
「へぇ…小結、俺の車が解るんだな~偉いぞー!!」
佳史の顔は、満面の笑みだった。
「そっちじゃなく、こっちに行くよ~」とリードを引っ張り静止した。
途中、犬を連れた家族の子供が、歩く小結を見つけ
「あぁ~小っちゃい!!可愛い~」と騒いだ。
そんな子供の声に、佳文は、
「可愛いのは正解、だけど君んちの子の方が、小っちゃいよね」
騒いだ子の家族が連れていたのは、ミニプードルだった。
佳文は、騒いだ子の家族に、軽く会釈をして先へ進んだ。
佳文と小結が歩く先々で、「小っちゃ~い」
「可愛い~」「子供のボーダーコリーですか?」と声をかけられて
佳文は、「そうです、ありがとうございます」と会釈して歩いた。
そうして歩き、車を止めた駐車場近くにまで来た。
すると、先ほどの子供が、走り寄って、
「ボーダーコリー?可愛いね」と小学生の低学年くらいの女の子は、
「ヨシヨシしていいですか?」と尋ねた。
内心、「噛まないか?」と思ったが、
佳文は、屈みこんで、小結の頭を撫でながら、
「まだ、小っちゃいから噛んじゃったらゴメンね」と言い、
小結のマズルを軽く抑えた。すると女の子は、
「噛まれても大丈夫だよ、ウチのモカちゃんね、いっつも私を噛むの!!」と
ケラケラ笑った。
佳史の心配を他所に、小結は女の子に、おとなしく触られていた。
その様子をみて佳史は、
「あぁ…ペットショップで触られ慣れてるか…」と思った。
しばらくすると、女の子の両親とお兄ちゃんに連れられた。
ミニプードルのモカちゃんが来た。
「すいません、いきなり走って行っちゃあダメでしょ!!」と
母親が女の子を優しく怒った。
お兄ちゃんが連れてきたミニプードルのモカちゃんは、
ワンワン吠えてたが、小結は、我関せずを貫いた。
「小結…お利口さんだな」と佳史は思った。
「この子のお名前は?」と聞く母親に、
「こむすびです」と答えると、
「珍しい名前ね」「でも可愛い名前」
「小結ちゃんって名前だって」と女の子や兄と父親に話していた。
「小結ちゃんね!!よろしくね」と女の子は、大はしゃぎだった。
「ウチのモカは、人はいいんですが…犬には…ね」
「それにしても小結ちゃんは、怒らないし吠えないし、お利口ね」
その家族は数十分会話をし、帰って行った。
女の子は、何度も振り返り手を振った。
佳文と小結は、駐車場へ戻ろうとすると、
犬種が様々な犬連れのグループが、こちらへ向かって歩いて来た。
皆の第一声は「あら~可愛い!!」「ボーダーコリーの子供ね」
そのまま、佳文と小結は、そのグループの一団に囲まれた。
一団が連れた犬達と、鼻を突き合わせ挨拶をする小結に、
「お利巧ね、挨拶もできるのね~」と歓喜が湧く、
小結の新しい一面に驚いた佳文だった。
そのグループと話していると
「小結ちゃんは、どこから来たの?近く?」とミニチュアピンシャーを連れた女性が佳文に聞いた。
「ここから、20分程ですかね」と答えて、
「いつもは、家の近くを散歩するんですが、たまには違う場所にもと、
ココへ来たんですよ」
その女性は、「ココは、犬の散歩がOKだから良いわよね」と小結を見た。
その言葉に、黒いラブラドール・レトリバーを連れた女性が、
「そうよね…あなたの家の周りは、昼間でもだけど
おっかなくて夜なんて歩けないもんね」
「あははっ」「あの道の事?あの道は、誰も歩かないわよ~」
そう言い笑飛ばした。
「そんな怖い道があるんですね」と佳文は少し興味がある素振りを見せると、
黒いラブラドール・レトリバーを連れた女性は、
「竹藪の竹がね道を覆いかぶさっててね、昼間でも暗くてね~怖いわよ!!
あそこは、出るわね!!お・ば・け」
ミニチュアピンシャーを連れた女性は「出るわよ…」と一言、言い黙った。
黒いラブラドール・レトリバーを連れた女性は、
「ヤメてよ~」と言い
ミニチュアピンシャーを連れた女性は、「なんてね~」と大笑いした。
そのグループと仲良くなった佳文と小結は、
来週、ミニチュアピンシャーを連れた女性の家に集まるから来ない?と誘われた。
考える佳文に、黒いラブラドール・レトリバーを連れた女性は、
「この人の家の近くに、わんこ達を走らせる場所もあるかのよ」と教えてもらい
佳文は、誘いに乗る事にした。
住所を書いた名刺を渡され、佳文と小結は、公園を後にした。
事前に、集まる場所を確認する為、パソコンで地図検索をし調べると、
何度も行った事があった場所の近くだった。
「へぇ…こんな近くに…そんな場所があったのか…」
パソコンの画面を見て思った。
そして1週間が過ぎ、ミニチュアピンシャーを連れた女性の家に向かい
車を走らせた。事前にルートを確認していた佳文は、迷わず到着した。
事前に確認したのは、佳文の車にはカーナビゲーションが取り付けてないのである、
到着すると、数台の車が止まっていた。
佳文の車を見つけた黒いラブラドール・レトリバーの飼い主の女性は、
「迷いませんでした?」「あっ!!ナビがあるもんね」と笑った。
「この車、ナビ付いてないんですよね~でも事前に調べたら、
あちらに、来た事があるんで、迷わなかったです」と
直ぐ先の堤防を、佳文は指差した。
「あら、そうなのね」と言いながら黒いラブラドール・レトリバーの飼い主の女性は、
ミニチュアピンシャーの飼い主の女性を呼びに行った。
「迷いませんでした?」とミニチュアピンシャーの飼い主の女性が言うと
黒いラブラドール・レトリバーの飼い主の女性が笑いながら、
「そう言うわよねー」
「小結ちゃんのパパは、なんかね、あの堤防の所に来たりしてたんだって」
「あら、釣り?」ミニチュアピンシャーの飼い主の女性が聞いた。
「はい」と佳文は答えた。
「それじゃあ、みんな待ってるから小結ちゃん、パパさんどうぞ」と
ミニチュアピンシャーの飼い主の女性は、家に招いてくれた。
「あっ、すいません」「お邪魔する前に、小結のオシッコさせて来ます」と
伝えると、ミニチュアピンシャーの飼い主の女性は、
「家の中でも、いいのだけど…」
「そうね…あの先に見える家の後ろの竹藪には、行かないでね
先週話した。お・ば・け・が出る竹藪だから」と笑った。
「はい」と答えた佳文だったが、竹藪へ続く道を小結と歩いた。
なぜ、その竹藪へ続く道へ向かったと言うと、
誘われた場所へのルートを調べた時だった。
なんとなく、ルートとは違う場所をストリートビューで見た。
すると夢で見た記憶のある場所を見つけたのだ。
偶然か?と思った佳文だが、この数日同じ夢を繰り返し見ていた。
小結の排泄を済ませて、そのまま夢と同じコースを歩き竹藪が覆いかぶさる
入口までやってきた。
「あぁ…夢と同じだな…」そう思った時、ボーダーコリーの小結が、
入って行くのをためらっが、佳文に続いた。
「たぶん…この辺りだな…」と夢で見た場所で立ち止まり、
夢で見たモノが出て来るであろう場所を見た。
風で、竹が軋み、枝葉が音を出した。
「すう~っ」と夢とは違う方向と現れ方で、若い…たぶん若い女性が現れた。
その女性は、佳文の前に立った。
小結の状態が気になった佳文は、小結を見ると道路に伏せをしていた。
「大丈夫か」と安心した佳文は、自分の髪の毛を1本抜き、
自分の前に立つ、女性の頭に付けた。
女性の手に触れて、大きく上に自分の手を上げると、
女性の手も上がり、そのまま「ふわっ」と浮き上がり消えた。
竹藪の竹が覆いかぶさる道は、なんとなく、明るくなった気がした。
「なんで…ここの夢を見たんだ…俺」
そう思った佳文だが、答えが出る筈も無かった。
そして、佳文と小結は、竹藪の竹が覆いかぶさ道を抜け、
ミニチュアピンシャーの飼い主の女性家へ、ゆっくりと歩いた。




