第7話 襲撃
日暮れ前に今日の野営場に到着した。
「おい、アキラ。出てきてもいいぞ。」
「まだ、明るいから危険じゃないか?」
「大丈夫だ。他の馬車からは少し離れて野営する。荷台の陰に隠れていれば見えない。」
「分かった。今、降りる。」
「出発時刻が早まったから予定より早く着いたな。」
「晩飯は俺が作ろう。あんたらも食うだろ?」
「おっ、いいのか?じゃあ、任せる。俺はテントを張るが、エランの奴が周辺の警戒をしてるから安心しろ。人が近づいたら知らせる。その時はすぐに荷台に入れよ。」
さて、3人前の飯か。何を作るかな。潜伏中は匂いの少ない料理中心だったが、ここなら気にしなくていいだろう。
護衛の二人に見られないように、ショッピングスキルを起動し、購入履歴から鶏もも肉500gの受け取りボタンを押す。日持ちのしないものは受け取らなければそのまま保存できることが判明しているので、受け取り待機状態の購入履歴がすごい数になっている。
よし、今日は鶏のガーリックバター炒めを作ろう。
鶏肉に醤油、酒、塩胡椒で下味をつけたら片栗粉をまぶしておく。油を入れたフライパンを魔導コンロに乗せて鶏肉を投入。両面をこんがり焼いたら蓋をして蒸し焼きに。アスパラと玉ねぎを加えて軽く炒めたら、ガーリックバターソースを加えて煮詰めて完成だ。
前世でもよく作ったお手軽料理だ。ガーリックバターにハズレなし。今の俺は味見ができないが、間違いなく美味いやつだと断言できる!
「うおー!食欲をそそる匂いだな!テントの設営は終わったぞ。なんか手伝うことあるか?」
「じゃあ、お湯を沸かしてもらっていいか?」
「おう。お安い御用だ。」
ベイズは働き者だな。エルメラなんてアウトドアチェアに座って寛いでいるというのに。
バゲットを切って、沸かしてもらったお湯でコンソメスープを用意して完成だ。
「飯できたぞー!エラン、周辺の警戒は俺が代わろう。3人で食ってくれ。俺は作りながら食ったから。」
「ああ、すまねえな。客なのに仕事させちまって。」
「気にするな。日が暮れたら俺も出歩ける。隠れてばっかりいるのは疲れるんだよ。」
この野営場にいるのは全部で5組か。既に日は暮れて真っ暗だ。俺の姿が目撃される心配はなくなったが、魔物が出没することもあるらしいからな。気は抜けないな。
3人が賑やかに食事を楽しんでいる。多めに作ったつもりなのだが、全部平らげそうな勢いだ。余ったら明日の朝食のホットサンドの具にしようと思ってたのに。鶏のガリバタ炒めでホットサンド、絶対美味いのになあ。でも美味そうに食ってくれるのは作り甲斐があるな。あの様子だと次の街まで俺は飯係になりそうだが、喜んで引き受けてやろう。
「アキラ、美味かったぞ。夜の警戒はあの二人がやるらしいから、我々はさっさと休むぞ。荷台を使っていいそうだ。」
「ん?俺も警戒役するぞ?寝る必要ないし。」
「バカタレ。お前は私の護衛だ。外の警戒はあの二人に任せておけ。」
「ああ、それもそうだな。俺も荷台の中にいよう。ショッピングサイト使えるしな。」
エルメラは荷台の上に折りたたみ式クッションマットを敷いて、緑のフランネル掛け布団に包まった。
ベッドもアウトドア用の組み立ての物を購入してもいいかもしれないな。コットって言うんだったかな?あれ、ハンモックみたいで割りと寝心地がいいと聞いたことがある。
エルメラのスースーという寝息を聞きながら、ショッピングサイトを検索する。
一人での逃亡生活は大変だったろうな。夜はろくに眠れていなかったみたいだし。やっぱり快適に眠れる寝具は必要だ。今夜は良さそうな寝具を探そう。
寝具を検索して物色していると、荷台の扉が強く叩かれた。
「おい!起きろ!魔物が出た!」
警戒に当たっていたエランから火急の知らせだった。
俺が起こすまでもなく、エルメラはすぐに飛び起きて魔導銃キャメロンを手に外に躍り出た。俺もそれに続いて降りていく。ゴーグルを装着したエランとベイズも魔導銃を構えて周囲を警戒している。
「状況は?」
「あそこの馬車が襲われている。距離があるから魔物の種類は判別できていない。」
少し離れたところの馬車の護衛が既に交戦中のようだ。俺のスペックの高い視力は、その魔物の姿を捉えることができた。
「でかい犬だな。結構な数がいそうだ。」
「あんた、この距離で見えるのか?この辺りででかい犬と言えばハウンドドッグだな。厄介なのが出たな。」
「奴らは群れで狩りをする。既に囲まれてるかもしれねえ。」
「この野営場全部を囲えるほどの群れがいるのか?」
「可能性はある。10匹くらいのグループの群れが複数グループで連携することがある。」
数十匹の群れの可能性があるのか。それは恐ろしいな。
3人は魔導銃を構えていつでも発砲できる態勢をとっている。エランとベイズは近接武器も用意している。距離を詰められたらあれで迎撃するのだろう。俺は丸腰なんだが、どうすればいいのだろうか。
「ちっ!やっぱり囲まれてやがる。あそこの木の影に一匹。」
「こっちにもいるぞ。他の馬車がやられた場合は背後もとられるかもしれねえ。さっさと片付けるぞ。」
「アキラ、合図したら私の前に出ろ。それまで待機だ。」
「了解した。」
「あんた、武器持ってないのに大丈夫なのかよ!」
「ああ、問題ない。」
「来るぞ!」
「撃て撃て撃て撃て!竜車に近づけるな!」
少しずつ距離を詰めてきていたハウンドドッグが一斉に駆け出してきた。それと同時に発砲音が響き渡る。
3人共、良い腕してるじゃないか。特にエルメラの銃の扱いは見事なものだ。装填も早いし、ほぼ全弾命中している。エランとベイズも負けていない。かなり腕の立つ者を護衛につけてくれたようだな。あのゴーグルはエルメラの物と同様に暗視効果があるのだろう。この暗闇の中でも善戦している。
「一匹抜ける!アキラ!前に出ろ!」
「了解!」
前に出て抜けてきた敵を迎え討つ。
よっしゃ!来い!
向かってくる敵にタイミングを合わせて蹴り上げた俺の足は、見事に空を切った。俺の蹴りをあっさり躱したハウンドドッグは側面から俺の左腕に噛みついてきた。思っていた以上の重量と力で、引き倒されそうになるのを何とか踏ん張って耐えた。
「このやろ!喰らえ!」
左腕に噛みついたままの敵の頭に全力で拳骨を落とす。グチャッと頭部が潰れる音と共に、敵は俺の腕から地面に落ちた。
「アキラ、大丈夫か?」
「服が破れた。重症だ。」
「そうか、それは痛い出費だな。あまり高価な服は着ないようにしろよ?」
どうやら俺が敵と戯れている間に戦闘は終わったようだ。
エランとベイズも無事のようだな。
「他の馬車はいくつか駄目かもしれねえな。かなりでかい規模の群れだ。」
「なあ、他の連中は何で魔導銃を使わないんだ?」
他の馬車の護衛の連中は皆、近接武器しか使っていないようなのだ。
「魔導銃は高いんだよ。弾代も馬鹿にならないし。あと、この暗さだと魔導ゴーグルもセットじゃないと見えない。」
「表の連中で魔導銃を持ってるのは、金持ちの商会か、騎士・衛兵だな。」
「高ランクの冒険者もサブ武器で持ってることもあるが、魔導銃で魔物を討伐しても弾代の方が高く付くこともあるしな。」
「私は自作できるから原価で撃ち放題だぞ。」
エルメラは使い込まれた感じの魔導銃キャメロンをドヤ顔で構えている。
「俺たち護衛の装備は運ぶ物によって配備される物が変わることもあるぞ。今回の仕事は金を惜しまず護衛しろってこったな。」
なるほど。ローブルファミリーへの貢献度は護衛の装備の質にも影響するのか。上客は手厚く護衛されると。
他の馬車の護衛はこの暗闇の中での戦闘に手こずっているようだし、暗視ゴーグルの装備の有無も結果に表れている。やっぱり装備は大事なんだな。俺も何か装備した方がいいかもしれないな。いつまでも丸腰で拳骨落とすだけってのもな・・・。
結局、この野営場にいた5組中4組が襲撃を受け、一組が馬車を守りきれずに他の馬車の元へ救助を求めていた。防衛に成功した馬車も損害は大きそうだ。怪我を負った護衛が結構いる様子だし。
「助け合ったりはしないんだな?」
「放っておけ。護衛代をケチったんだろ。自業自得だ。」
皆、自分の馬車を守らねばならないから、他の馬車を助けたりはしないようだ。
こんな規模の襲撃は滅多にないらしい。運が悪かったみたいだ。出発初日からこの世界の移動の難しさを思い知らされた。俺の左腕部分の服もボロボロになったし、手痛い洗礼を受けてしまったな。
しかし、襲撃があったのはこの一回だけだった。その後は何事もなく、いくつかの村を経由し、最後の野営場に着いて5日目の朝となった。目的地のニールベンの街は目前だ。
「まだ出発しないのか?」
「ローガーファミリーからの連絡員待ちだ。潜伏先までの経路確認や異常がないかの報告があるんだ。おっ、噂をすれば来たな。」
ニールベン街の方向から馬に乗った男がやってきた。その男がベイズと何か会話している。会話はすぐに終わり、馬に乗った男は街の方向に戻っていった。
「予定変更だ。数日前から検問が厳しくなっているらしい。プランBに移行する。」
「プランBって何だ?」
「街に入れない場合のプランだ。街の外にあるローガーファミリーが経営するゴミ処理場に向かう。そこが潜伏先となる。」
「異常事態も想定済みか。流石だな。」
「二手に分かれる。エランはこのまま竜車で街へ入る。お二人さんは俺が徒歩でゴミ処理場まで案内する。一般人からの目撃を避けるため、少し歩きにくいルートで向かうがついてきてくれ。」
エランに別れを告げて俺とエルメラはベイズについていく。
次の潜伏先はゴミ処理場か。臭そうだな。あ、俺、嗅覚なかったわ。