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第5話 side:エルメラの回想

王宮錬金術師として取り立てられて2ヶ月が経った。

私の最初の仕事として、普及している魔道具の効率化を目的とした研究を任せられた。学生時代は魔導銃の開発に没頭していたので、これまで培った技術が活かせるだろう。王宮勤めの研究員や魔法師との顔合わせも大体終わり、新しい職場にも慣れてきた。そろそろ念願の禁書庫へお邪魔させてもらおう。私は王宮錬金術師などという地位に興味はない。ただ、王宮に厳重に保管されている禁書庫の閲覧権が得られるからここに就職しただけだ。


早速、手続きを済ませて書庫に入れてもらった。

これが全部禁書なのか?思っていたよりも多数の蔵書が収められていた。法律や歴史の棚も少しあるが、大部分はやはり錬金術や魔法書の内容のようだ。これはしばらく書庫通いになるな。


禁書庫に通って一月が経った。休日は勿論、仕事が終わると禁書庫へ向かう毎日だ。

禁書と言うだけあって内容は過激なものが多いが、研究者の端くれとしては興味をそそられる内容ばかりで満足している。しかし、どうにも違和感がある。蔵書の半分以上に著者の明記がされていない。王宮が厳重に保管するくらいだから偽物ではないだろうが、これでは信憑性が落ちてしまうではないか。


「やあ、君が新入りのエルメラ君だね?」


没頭していると声を掛けられた。振り返るとエルフの男性が立っていた。この男は・・・


「筆頭魔法師のグラフトン様とお見受けします。今春より勤務しております、エルメラ=スノウベルクと申します。」

「ああ、固くならなくていいよ。最近、ここに通い詰めてる若者がいると聞いてね。会ってみたかったんだ。」


王宮筆頭魔法師兼王宮筆頭錬金術師ルーファス=グラフトン。長い肩書だが、つまりこの国の魔法と錬金術のトップの座に君臨する超重要人物だ。王宮内でもほとんど姿を見かけることがない。


「君は魔導工学が専門だと聞いたけど、興味のある本はあったかい?」

「はい、興味深い本ばかりです。専門外ではありますが、この魂や精神について言及されたものや輪廻転生の魔法理論。錬金術師の端くれとしては気になりますね。」


答えた後に気付いたが、今挙げた本はどれも例の著者名の記載のない本だった。


「やはり真理を追い求める者はそこに惹きつけられるか!どうだろうか、良かったら僕の研究室に来てみないかい?きっと君も気に入ると思うんだ。」


国のトップ研究者の研究室への招待。私は二つ返事でこれを了承した。

書庫を出てグラフトン様の後をついていくと、王宮の地下へ向かう階段が現れた。王宮にはこんな所があったんだな。


「既に気付いてると思うけど、あの書庫には著者の記載の無いものがあっただろう?」

「はい。禁書ですから何か事情があって意図的に隠しているものと思っておりましたが。」

「あれ全部、書いてるのうちの研究室なんだ。」

「!?」


自分の体から血の気が引いていくのが分かる。あれらの禁書には非人道的な実験の検証記録なども多数記載があったからだ。


「さあ、着いたよ。ここが僕たちの研究室だ。ここで働くのは皆、真理を追い求める同士なんだ。今日はもうこんな時間だから、みんな帰っちゃってるけどね。」


研究室を案内してもらったが、その間の会話の内容はほとんど頭に入ってこなかった。研究の内容は常軌を逸しており、狂気に満ちたものだったからだ。被検体となっている人間は死刑囚だけでなく、マフィアが攫った裏の住人までもが使われているようだった。


「僕はエルフだから長寿だけどね。不死身でも不老不死でもないんだ。でもね、魔法や錬金術にはそれを実現する可能性があると思ってるんだ。」


私は気付いたら白衣の内側に隠し持っていた小型魔導銃ミュスカで、この頭のイカれた男を背後から発砲していた。

胸部に2発、頭部に1発。乾いた銃声が響いて、私はハッと我に返った。国の重要人物を殺してしまった。

逃げなければ。ただそれだけを考えて私は走った。幸いにも響いた銃声は誰にも聞かれていなかったようだ。しかし、自宅に駆け込んで財産を持ち出すだけの時間はあったが、王都を出るには間に合わなかった。王都の検問所では既に私が指名手配されており、スラム街に逃げ込んだ。何とかして王都を出るためにマフィアと接触をとった。自宅から持ち出した財産のほとんどを支払うことになったが、王都脱出には成功した。


それから私の逃避行が始まった。

コンコンコンコンコンッ。ノック音が響く。


「ロークの使いで来た。」

「何だ?」

「対面であんたに仕事を依頼したいと言っている奴がいる。」

「物を預かってくればいいだろう?」

「まず、設計図の一部を見てもらいたいそうだ。その上で取り扱えるなら現物を出すそうだ。報酬は応相談。」

「どんな奴だ?王都からの追手ではないのか?」

「アキラと名乗る妙な仮面を被った大男だ。ざっと探りを入れたが素性はさっぱり分からない。いつどうやってこの街に入ったのかも分からない。不自然なくらい何の情報も出てこない。故に王都絡みの連中である可能性は低いと見ている。連中の動きは分かりやすいからな。」

「ふむ・・・。」


この街を発つ手筈は既に整ってるし、いざとなればすぐに逃げることはできる。マフィア相手の商売は買い叩かれるが、個人の取引なら吹っ掛けても問題ないし、儲け話になるかもしれんな。会ってみるか。


「分かった。会ってみよう。ただ、酒場の個室を貸してほしい。」

「問題ない。伝えておく。」


この街で最後の仕事になるか。もうすぐ国境だ。国境超えには大金が必要かもしれないし、稼ぐチャンスは逃すわけにはいかないな。



酒場で待っていると件の大男がやってきた。確かに妙な奴だ。私は警戒しつつ、自作の魔導ゴーグルを通してスキル鑑定を行う。『ショッピングサイト』というスキルを持っているようだ。


「改めて俺はアキラだ。まずは対面での取引に応じてくれて礼を言う。」

「前置きはいい。仕事の内容は?」

「まずは設計図の一部を3枚見てほしい。その上でその品を修理・メンテナンスが可能かどうかを聞きたい。」

「・・・これは完全に外法の類のものだぞ?」


提示された設計図は既視感のあるものだった。全く同じではないが、王宮の禁書で見たものを改良したものではないだろうか?


「それが何なのか分かるのか?」

「書き込まれてるのは大部分が人間の魂に関する情報だ。これは錬金術の分野の中でも禁忌とされている。これと似たものを文献で見たことがあるが、それは禁書とされていて国が厳重に保管している。」

「その禁書の内容とは?」

「昔、とある貴族が不老不死を求めたらしい。魂を別の容れ物に移し替えればいいのではないか?という思想の元、人間から魂を引き剥がして作り物の体に入れようとした。しかし、魂は定着せず失敗に終わった。という内容だったな。」

「その魂の定着の成功例があるとして、破損した際の修理・継続的なメンテナンスは可能か?」


この大男は何を言っているのか。成功例が本当にあるのか?あのグラフトンですら、おそらく成功させていないはずだぞ。


「この3枚目の図面のものは修理は無理だろう。破損したら魂が離れて戻ってくることはないと思う。それと継続的なメンテナンスはどのみち無理だ。私は逃亡中の身だからな。潜伏先は定期的に変わる。近々、この街も去るつもりだ。」


男はショックを受けたように挙動不審な動きをしだした。


「あの・・・俺も連れて行って頂けないでしょうか?」


なんだこいつは。急に態度が小さくなったな。いや、待てよ。対面でないと依頼できない仕事、そしてさっきの1枚目と2枚目の設計図はもしや・・・


「・・・そのセリフはお前自身が成功事例ということか?1枚目と2枚目の設計図はつまり魔導ゴーレムなのか?そのフードを外してくれ。」


仮面ではなかったのか。光沢のある金属の頭部が露わになる。手袋の下も同様のようだ。1枚目の足の設計図もそういうことなのだろう。私のゴーグルを通してスキル鑑定が行えたのは魂がある証。スキルは魂に刻まれるものとされているからだ。魂が定着した魔導ゴーレムが目の前にある。


「驚いたな。不老不死を実現してる奴がいたのか・・・。」



何だかんだで同行を許可してしまった。グラフトンでも成し得なかった不老不死の個体を前にして誘惑に負けた。


翌日、目が覚めると見慣れない綺麗な緑の布団がかけてあった。手触りの良いふわふわの布団だ。実家の布団よりも上質かもしれない。

もう朝日が昇り始めている。随分長く寝てしまったようだ。こんなに熟睡したのはいつ以来だろうか。


「おはよう。」


長い間聞いていなかった言葉が掛けられる。


「もう朝か・・・。この布団は?」


挨拶を返さねばと思ったのだが、私の口から出たのは質問だった。今後は気をつけよう。

朝食とお湯を入れた鍋とタオルが運ばれてきた。アキラは気を遣ってくれているようで、キッチンに戻っていった。食欲をそそる匂いに思わず喉を鳴らしてしまう。急いで体を拭いて、まだ湯気が立ち昇っている具沢山のスープに有り付く。食事を口に運ぶ手が止まらなかった。途中から何故か涙が出ていた。キッチンから香ばしい匂いがしている。お茶を淹れているのかもしれない。急いで涙を拭って心を落ち着かせた。


アキラがコーヒーを淹れて運んできてくれた。コーヒーとはまた珍しいものを。王都で飲んだことがあるコーヒーはただ苦いだけだったが、アキラが淹れてくれたコーヒーは甘みのある優しい味だった。


「美味かったぞ。実に良い拾い物をした。」

「どういたしまして。今までどんな食生活だったんだ?ちゃんと食べてるのか?」

「お前は私の母ちゃんか。食料もマフィア頼みだったんだ。仕方がないだろう。」


学園に通っていた頃を思い出す。私は研究室に籠もりきりになることが多く、ズボラな食生活を送っていた。たまに帰省する度に母から「ちゃんと食べているの?」と言われたな。

私が指名手配されて家が取り潰されたという情報は入っていないが、母は元気にしているだろうか。


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