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第4話 『ショッピングサイト』スキルの検証

酒場の裏口から出ると、既に日が落ちて薄暗くなっていた。狭い路地を縫うように進んでいく。時折、周囲を警戒しながら、しかし時間をかけないように急いでいる。その動きから彼女の逃避行が日常的なものになっているのが分かる。

倉庫街のような場所に入り、全く同じ建物が立ち並ぶ中を迷いなく歩き続ける。目的地に着いたようで、足を止めると素早く鍵を開けて中に入る。


「ここが今の潜伏場所だ。しばらく外には出るなよ。」

「ああ、絶対迷って戻って来れなくなるから出ないよ。」


ここは倉庫兼作業場だろうか。エルメラが持っているショットガンのようなものが並んでいる。


「ここにある物には触るなよ。納品する商品だからな。魔石はそこの箱に入ってるから食っていいぞ。」


箱の中を覗くと結構な量の魔石が入っていたので、遠慮なくもらっていく。


奥の扉を開けた先が生活空間のようだ。


「早速だが詳しく話を聞きたい。それと手持ちの資料も全てもらうぞ。」

「ああ、このカバン2つ分だ。それだけしか持ち出せなかった。俺にはほとんど理解できないから、不要な資料は捨ててくれ。」


手荷物を渡して、俺がこの世界で覚醒してからの出来事をできるだけ詳細に話した。


「大体、事情は把握した。異なる世界の人間というのが信じがたいが、あのスキルの異質性からすると本当なのだろう。」

「俺が洗脳されている可能性については?」

「精神制御による洗脳は気にしなくていい。おそらく、アキラは魂だけの状態で精神がないから効果がないものと推測できる。」

「なるほど。」

「不安ならプレートの精神制御の魔法陣部分は消去できると思う。その空いたスペースに新たな情報も書き込めるし、その方が有意義だろうな。だが、今はできない。もう少し状況が落ち着いて、安全が確保できてからだ。それまでに新たに書き込む情報を検討しておくとしよう。」

「分かった。その辺は任せるよ。それでこれからの予定は?」

「近日中にこの街を発つ予定だったが、延期になるのは間違いない。運び屋にも準備があるし、何よりローブルファミリーから追加の仕事の依頼がくるはずだ。」

「俺が同行することになったからだな?通行料がどうとか酒場で言っていたが・・・。」

「我々は自力で街を出入りすることができない。だからマフィアの手を借りて運んでもらうんだ。その際に支払うのが通行料だ。」


詳しく聞くと、通行料の他に移動時の護衛代、次の街で世話になる現地のマフィアの紹介料、潜伏先の利用料など支払いは多岐に渡るらしい。


「私はそんなに金を持っていない。王都を脱出する際にほとんど使ってしまったからな。それ以降は仕事を請け負うことを対価としているんだ。主に魔道具の整備・作製だな。特に私の作る魔導銃は評判でな、専らそれだ。」

「仕事を請け負って、それが達成されれば次の街へ移動できるということか。」

「その通り。当面は国境を越えることを目標にしている。私の手配書は王国内でしか出回っていないから、隣国に入れば安全度が増す。」

「当面はとにかく金が必要になるわけか。じゃあ、俺はスキルの検証でもしていようかな。」

「それがいいだろう。魔石が必要ならローブルファミリーの組員が訪ねて来た時に注文しておくといい。扉のノックは5回、『ロークの使いで来た』と言うのが組員だ。それ以外は追手だと思え。」

「了解した。」

「私はこの資料を読み進めておく。仕事の依頼がきたらそちらに掛かり切りになる。アキラの解析はしばらく先になるが、異変があれば知らせてくれ。それと酒場で飲んだ酒だが、あれはいくつか購入しておけ。」

「ん?売るつもりか?」

「ああ。そのつもりで残りをバッケスに渡したんだ。ローブルファミリーのボスは直接会ったことはないが、コレクションするほどの酒好きだと聞いたことがある。まず間違いなく要求してくるから売って金の足しにしてくれ。ただし、金額の交渉は絶対にするな。相手が提示した値で売れ。その方が良好な関係を築ける。」

「金策になるなら協力するよ。でも売るならもっと資金効率のいい商品もあると思うぞ?」

「それは追々だな。今はボスの好きな物を渡して気に入られておく方がいい。」

「分かった。でも早めに金策できそうな他の商品も探してみるよ。エルメラには迷惑を掛けてばかりだからな。」

「打算もあるから気にするな。食料品も購入していただろ?明日からの食事は期待しているぞ?私はしばらく寝る。」


エルメラはそう言うとゴーグルを外してベッドに横になった。


さて、では俺もできることをやるとしよう。


「ショッピングサイト」


スキルを起動して、まずは時刻を確認する。21時42分。今から注文すれば、0時の受け取りに間に合うな。

逃亡生活に必要になりそうな生活用品を中心に購入していく。それと自分の服と靴、手袋も新しくしたい。ビッグサイズで適当に購入してサイズの合う物を探すしかない。

ローブルファミリーに売る酒も必要だったな。同じ酒ばかり大量に売るより、色んな種類を数本ずつ売るか。コレクションしてるって言ってたしな。似たような価格帯で検索して・・・適当に格好いいラベルの瓶酒を選んでみた。漢字一文字がドーンと書かれてるジャパニーズウイスキーとか、ジン・ウォッカ・ワインと低価格なものを選んだ。

もらった魔石を取り込みながら、どんどん購入していく。そういえば、このスキルは車なんかも購入できるみたいなんだよな。価格は100万魔力を楽に超えてるから買えないけど。俺のMAXチャージ魔力ってどのくらいなんだろう。覚醒時の状態がフルチャージ状態ではないはずだ。魔石は際限なく取り込むことができるのだろうか?今度、エルメラに聞いてみよう。


それにしても普通に転生していれば、異世界でも美味いもの食えるぜ!って喜べるスキルなのだが、この体だと食欲もないから俺自身への恩恵は全くないな。今の状況と全く噛み合わない神スキルだ。


0時になった。

購入履歴を見ると全て受取可能になっている。しかし、全部受け取ってしまうと邪魔になる。今、必要な物だけ受け取るとしよう。エルメラを起こさないように静かに開封していく。

まず、取り出したのは『ふわふわ暖かフランネル掛け布団』だ。お値段は1527魔力。激安だ。ただし、色はおまかせ。出てきたのは淡い緑色だった。うむ、派手な色じゃなくて良かった。移動中にも使うかもしれないからな。これは当たりだな。エルメラにも似合いそうな色だ。

何故こんな物を買ったのかというと、エルメラが使っているのがボロボロのブランケット一枚で寒そうだったからだ。日中、歩いていた人たちはそれなりに厚着だったし、多分今はそこそこ寒い時期なのだと思う。俺の体では気温を感じないから確信はないが。

寒そうに寝ているエルメラにそっと『ふわふわ暖かフランネル掛け布団』を掛けて、他の商品の開封を続行する。


商品の開封が終わると、「ショッピングサイト」を眺めて時間を潰した。このスキル、自分自身には何の恩恵もないと思ったが、暇つぶしには役に立つな。睡眠が必要ないから夜は暇になりそうだが、色んな商品を眺めているだけでも割りと楽しい。気が付けば4時を過ぎていた。そろそろ朝食の準備でもしておくか。


この部屋には小さいがキッチンスペースがある。かまどがあるが、薪はなく使われた形跡はない。どのみち、潜伏中に煙を出すのはまずいだろう。代わりに小さいコンロみたいな物がある。多分、魔道具だな。これもエルメラが作ったのかな?スイッチらしき物を適当に弄ったら火が出た。さてメニューはどうしようか。

潜伏中に匂いが強い料理は駄目だろうな。居場所がバレてしまう。ベーコンを焼くのもアウトだろうか?悩んだ結果、煮込むだけなら匂いは大して出ないだろうと思い、ポトフを作ることにした。アウトドア用のアルミ製小鍋に野菜とソーセージをぶち込んでコンソメスープの素で味付けしただけの男料理だ。これにロールパン、目玉焼き、チーズを添えて朝食完成だ。前世では自炊していたが、決して料理は得意ではない。これから頑張ってみるかな。不老不死になったから時間だけは無限にあるし。



朝日が昇り始めた頃、エルメラは起床した。


ゴーグルを外したエルメラは、なかなか綺麗な顔立ちをしていた。髪がボサボサなのと目の下に濃いクマがあり、やつれた様子だが元はかなりの美人さんだったのではないだろうか。前世の職業柄、あのボサボサ頭だけでも何とかしたいと思ってしまった。あとで理髪用品を買っておこう。


「おはよう。」

「もう朝か・・・。この布団は?」

「『ふわふわ暖かフランネル掛け布団』だ。」

「こんな物まで購入できるのか。久しぶりによく眠れたよ。」

「それは良かった。飯食うか?」

「ああ、もらおう。」


食事とお湯を入れた鍋とタオルを持っていく。見られていると食べにくいだろうから、俺はキッチンに戻った。体を拭いたりもするだろうからね。俺は気を遣える魔導ゴーレムなのだ。食後のコーヒーの準備でもしておこう。


頃合いを見計らって食後のコーヒーを持っていくと、用意した朝食は完食してくれていた。


「美味かったぞ。実に良い拾い物をした。」


俺は拾得物なのか・・・。


「どういたしまして。今まではどんな食生活だったんだ?ちゃんと食べてるのか?」

「お前は私の母ちゃんか。食料もマフィア頼みだったんだ。仕方がないだろう。それよりローブルファミリーの使いがそろそろ来ると思うから対応は任せる。」

「了解だ。」


朝食の片付けをしていると、扉が5回ノックされた。


「ロークの使いで来た。」


鍵を開けて扉を開くと、特徴のないすごく地味な男が立っていた。


「便の変更に関する見積もりだ。この場で内容を確認してくれ。」


渡された紙面をみる。


『マジックバッグ2つ(重量軽減重視でこちらが用意した素材でできる範囲の性能で)、キャメロン10挺、ミュスカ10挺、イライザ5挺、対応する弾薬数は・・・』


これは魔導銃の名前か。エルメラへの仕事の追加だな。おっ、俺宛の依頼もあるな。エルメラの読み通りだ。


『昨夜の異国の酒の手持ちがあれば買い取りの対象とする。数量は無制限。一瓶当たり金貨3枚とする。』


「相談があるんだが。」

「何だ?」

「この酒の買い取りの件だが、他の種類も持っている。原価は全部同じくらいだから同じ価格で買い取ってほしい。それと、酒の売却代金は全て通行料に当ててもらっていいから、エルメラへの仕事の追加を減らして欲しい。元々、俺が加わったことで発生した事案だ。筋は通っていると思うが検討してもらえないか?」

「ボスに伝えよう。とりあえず今ある分を全て出せ。」


ダンボール箱に入れてガチャガチャと音を立てながら差し出す。


「結構重いけど持てるか?」

「マジックバッグがある。問題ない。」


地味男は酒瓶を一本ずつ小さなカバンに入れていった。カバンの見た目以上の容量が入るようだ。欲しいな、マジックバッグ。


「合計58本だな。確かに受け取った。見積もりの変更は追って連絡するが、キャメロンとミュスカ5挺分ずつは製作依頼に変更はない。既に外部注文が入っている。製作を進めさせろ。素材はいつものように倉庫に搬入済みだ。」

「分かった、エルメラに伝えておこう。それと魔石を不自然に思われない範囲で、できるだけたくさん用意してくれ。対価は酒代から引いてくれ。」

「分かった。午後にまた来るだろう。」


地味男が帰った後、エルメラに報告をする。


「ふむ。良い交渉だ。魔導銃を作るのは割りと時間がかかるからな。」

「ちなみにキャメロンとかミュスカの名前の由来は?」

「私の学生時代の後輩の名前から適当につけた。」


うわあ、裏の住人の殺人兵器に名前使われるのは嫌だなあ。気の毒な後輩さんたちだ。


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