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第35話 祝いの日

宴会場は慌ただしく準備に追われていた。


前回の戦勝会以降、ここには訪れていなかった。酒場に改装されたと聞いていたが、なかなか立派な厨房ができている。フロア全てを酒場にするには広すぎる物件なので、普段は半分に仕切って使用しているようだ。今日は仕切りは取り払われて貸し切りとなっている。


今回は他所の組は参加しないので気楽な宴会だ。特に準備する側としては、気負う必要がないというのは楽で良い。マルダシリは相変わらず忙しそうだけど。あいつは失敗するとケツを蹴られることになるから、いつも必死なのだろう。


必要な食材は厨房に全部出してきた。後はフーちゃんの指示の下、酒場の従業員の人たちが頑張ってくれる。調理できる人の手が借りられるのは本当に助かる。前回はマルダシリの部下の人たちが手伝ってくれたが、料理なんてやったことがないという奴が何人かいたのだ。優秀な連中ではあるのだが、やはり本職の人に任せるのが一番だ。


俺は宴会用ネタアイテムを各テーブルに設置していく。


生ハムの原木12ヶ月熟成(約7kg):お値段15980魔力


前回のネタアイテムのホールの状態のチーズは、好評だったと聞いている。

今回は生ハムだ。熟成期間が短いものなら割と手頃なお値段で買えた。ナイフで削りながら食べるというこの面倒な一手間も、宴会を盛り上げる要素になってくれるはずだ。まず食べ切れる量ではないので、宴会ならではの贅沢な食べ方だろう。

各テーブルごとに一つ丸ごとドーンと置く。台座に設置された骨付きの肉塊が、何とも言えない存在感を放っている。

今回はエルメラも組員と同じ会場で飲むということで、ボスのテーブル席も用意されている。この席に設置する生ハムはミニ原木だ。その代わり48ヶ月熟成の高級生ハムだ。お値段はさっきの物とは比較にならないほどお高い。味にうるさいエルメラも、これなら文句は言わないだろう。


寒くなってきたのでバーベキューは今回はなしだ。代わりにテラスにはアウトドア用のピザ窯を20台並べた。冷凍のピザを大量に買ったので、酒場の従業員の人にひたすら焼いてもらおうと思っている。これにさっきの生ハムをのせれば更に美味くなるのは間違いない。



今回の宴会も勝利を確信しつつも、他に何か準備するものはなかったか考える。


そうだ。賊討伐の時にボイスレコーダーを設置した奴に褒美をやるんだった。活躍した者を表彰するのは大事なことだろう。ちゃんと評価してやらねば。ただ飯食って酒飲んで騒いで終わりでは、戦勝会とは言えないだろう。活躍すれば褒美が出るということを理解させれば、また何か作戦があった時にみんな頑張ってくれるはず。次に繋がる意味のある戦勝会にしなければ。


金一封は贈るとして、記念品も何かあった方がいいだろう。うーむ、何が喜ばれるのか分からない。そもそも、件の功労者がどんな奴なのかも聞いていない。本人に欲しい物を直接聞くのが良さそうだな。



宴会場には組員が続々と集まってきた。今回は他所の組がいないので、物々しい雰囲気は感じられない。

エルメラとキャロちゃんも護衛に囲まれて到着した。これで参加者は揃ったか。


「よーし、全員酒は準備できたかー!祝勝会始めるぞー!みんな、賊の討伐ご苦労だった!ミュゼルファミリーの結束力を改めて確認できた戦いだったと思う!まあ、俺は留守番してたから何もしてないんだがな!ガハハハハ!」


宴会部長のマルセルが今回も幹事を務めてくれている。和やかな雰囲気で乾杯の音頭がとられ、祝勝会が始まった。


厨房はとても忙しそうだ。フーちゃんも焼き上がったピザの給仕を手伝っている。彼女が手伝う必要などないのだが、本人がやりたがっているのだ。子供がやりたがってることに水を差すのも良くないだろう。俺も手伝ってあげたいが、いつものようにキャロちゃんとエルメラの世話をするのに忙しい。

怠惰で我儘なエルメラから細かく指示や小言が飛んでくるのだ。


「ちょっとこのステーキを切り分けてくれ。」


それくらい自分でやれよと言いたいが、それを言うとネチネチと説教されることになるのだ。それはもうネチネチネチネチと。酒が入ってるから余計にたちが悪い。黙って従うのが最善なのだ。

そして目を離していた間にキャロちゃんがピザを細切れにしていた。どうやらピザカッターをコロコロするのが気に入ったらしい。


二人の世話に追われていると、マルダシリが一人の若者を連れてやって来た。ワインを楽しんでいるエルメラを邪魔したら、ケツを蹴られると思ったのだろう。チラッとエルメラの方を見てから俺に話を持ってきた。


「代行、こいつが今回の作戦の功労者でやす。セキマツ君、挨拶して。」

「セキマツッス。よろしくッス。」


真っ赤な髪の十代後半くらいの若造だ。こんな目立つ奴が偵察部隊にいたのか。


「ちなみに今回の作戦の功労とは無関係に、彼はボス宅隣の支部に異動してもらう予定になっていやす。今後はよく見かけることになると思いやす。覚えてやってくだせえ。」

「そういえば、うちの近所は若い組員が一人もいなかったな。」

「ええ、ボスの周りは所属歴の長い信用できる奴で固めていやす。雇ったばかりの連中の中には、スパイとか刺客が混じってる可能性もあるんで。セキマツ君はうちに所属して一年程でやすが、とても真面目で優秀なんでボスの近くに置いても問題ないと判断しやした。もちろん過去の経緯も含めて身辺調査も行っていやす。」


うーん、軽薄そうなパッとしない見た目の奴だなあと思ったのだが、マルダシリが一目置くほどならきっと優秀なのだろう。今回の作戦でも成果を挙げてるわけだしな。マルダシリも見た目はアレだが優秀だし、見た目で判断するのは良くないよな。


「ちなみに彼は槍の扱いも中々のものでやす。護衛にも使えると思いやす。」


近接戦闘もこなせるのか。それはうちの組では貴重な人材だ。裏の住人は基本的に集団での銃撃戦だからあまり活躍の場はないが、需要がないわけではない。キャロちゃんがギルドに通うようになったらこいつを護衛役にするか。


「うむ、分かった。今回の作戦は君の活躍がなければ上手くいかなかっただろう。何か報酬を用意しようと思うのだが、何か欲しい物はあるか?」

「あー、異動になったんで最近引っ越したんスけど、家具類がまだ無いんスよ。とりあえずベッドが欲しいッス。」

「分かった。寝具一式用意してやろう。マルダシリ、それとは別に金一封も用意してやれ。今後の働きにも期待しているぞ。」

「あざッス。頑張るッス。」



さて、そろそろ次のボトルを開けないとエルメラが癇癪を起こす頃だ。キャロちゃんもデザートを強請りだしたし、二人の世話に戻らねば。


こうして今回の祝勝会も平和に幕を閉じた。



その夜から猛吹雪が吹き荒れた。翌朝には辺り一面雪景色だった。雑多な汚い街並みも雪化粧によって綺麗に見える。普段は喧騒の止まない騒がしいこの街も流石に少し静かになった。みんな引き籠って暖をとっているのだろう。

しかし、人が動かなくなると商売は上がったりだ。うちの組も仕事が減って暇になっている連中が多い。マルダシリは相変わらず忙しそうだが。事務仕事に追われている連中は平常運転のようだ。

我が家の住人の生活はそんなに変わりはない。エルメラは倉庫に籠ってキャロちゃん強化計画を進めつつ、並行して何か研究に没頭している。フーちゃんは食堂の運営に尽力してくれている。今は冬メニューを考えているようだ。

俺も色々と忙しくしている。暇そうな組員を捕まえては髪型を整えたり、執務室に飾る写真を入れ替えたり。キャロちゃんとフーちゃんの写真の枚数が同じになるように選ばねばならない。ああ、忙しい。


本格的な冬シーズンに突入してしばらく経った頃、我が家の住人は頑張り過ぎている気がしてきた。


「なあ、最近みんな頑張り過ぎじゃないか?たまには休んで息抜きでもしたらどうだ?」

「む?今はキャロの教育の大事な時期なのだが。うーむ、だが確かに息抜きも必要か。そういえば、もうすぐ私の誕生日だな。よし、私の生誕を祝うのだ。」


うーん、息抜きを提案しておいてなんだが、話が変な方向に向かってしまった。

キャロちゃんはリビングのソファーで寛ぐエルメラの肩を揉みだした。フーちゃんはワイングラスを用意してお酌し始めた。

うーん、違う。俺の考えてた息抜きとは何か違う。


「祝いの品はワインセラーがいいな。アキラ、スキルを見せてくれ。ほれ、さっさと。」

「俺が購入するものは電気がないと動かないぞ。」

「それは自分で動くように改造するから問題ない。動力を変えるだけなら何とかなるだろ。」

「そんなこと言っても、車は未だに動かせるようになっていないじゃないか。」

「あれは作りが複雑すぎるのだ!ワインセラーくらいなら何とかなるはずだ!」


以前購入した中古の軽自動車は、倉庫に鎮座したままだ。確かにオートマ車は作りが複雑だもんな。でもマニュアル車はショッピングサイトには出品されていなかったしな。頑張ってもらうしかないな。


とりあえず、俺も座ってショッピングサイトを起動させた。エルメラが顔を寄せて画面を覗き込んでくる。


「一番値段の高いやつを買ってくれ。」

「それは無理だ。値段見ろよ。253万魔力だぞ?俺の容量遥かに超えてるよ。それにこんなでかいものこの部屋に置けないだろ。」

「むう。じゃあ、この部屋に置けるサイズで一番良いものを買うのだ。」


しばらくエルメラの我儘に付き合いながら、場所をとらない縦に細長いタイプのワインセラーを購入した。


「キャロちゃんとフーちゃんも何か欲しいものはある?」

「ん。おやつ。」

「おやつか。じゃあ、誕生日ケーキを探すか。」

「私は調理器具を見たいです。」

「ふむふむ。順番に見ていこうか。」


画面が良く見えるようにフーちゃんを膝の上にのせてあげた。キャロちゃんはエルメラにべったり抱きついている。4人でショッピングを楽しんで、購入したケーキでお祝いした。


何だかんだで休日っぽい感じにはなった。俺の考えてた息抜きとは違ったけど、まあ気分転換にはなっただろう。


エルメラは思いついたことは全部やろうとして、それが達成されるまでのめり込んだりする。それにつき合わされるキャロちゃんは大変だろう。定期的に休暇を取るように進言するのが良さそうだ。


子供たちはケーキを食べ終えると眠ってしまった。


「エルメラは25歳になるんだったか?」

「24だ。まだ20代前半だ。・・・私も貴族の淑女として生きていたら、これくらいの歳の子がいる頃なのか。」


眠っているキャロちゃんの狐耳をモフモフしながら、感慨深そうにしている。


「後悔してるのか?」

「いいや、していない。人には人生の分岐点というものがあるということを言いたかったのだ。」

「何だそんなことか。そりゃ、色んな生き方があるんだから当然だろ。」

「仮にもう一度人生をやり直せるとしても、私はまた錬金術師の道に進んで、また同じ罪を犯すだろうな。しかし、私の人生に後悔はないが、もっと早くキャロを拾うことができていればと思うことはある。」

「それは仕方がないんじゃないか。俺たちが出会ったこと自体が奇跡みたいなもんだろ。」

「うむ。しかし、キャロは私とまではいかなくとも、それなりに優秀な人材になれたかもしれんのだ。もちろん、これからの努力次第ではまだ可能性はある。ただなあ・・・精神的に幼いのだ。奴隷として生きた期間が長過ぎた。」

「ああ、それは確かに。同年代のフーちゃんと比べてもそれは明らかだな。」

「フーリアはキャロとは対象的に精神が成熟し過ぎてるから比較の対象にならん。幼い頃から教育を受けてきたせいだろうが。この歳で自分で生き方を決められるのは一般的ではない。」

「ふむ。でも精神面を育てるためにもギルドに通わせるんだろ?じゃあ、まだまだこれからだよ、キャロちゃんは。」

「うむ。知識や技術は教えてやれるが、やっぱり人付き合いが必要なのだ。」


エルメラはキャロちゃんの狐耳をモフり続けながら、残っていたワインを呷った。


「キャロにもいつか分岐点がやってくる。どんな道を選ぶんだろうな。」


ポツリと漏らしたエルメラの言葉が俺を不安にさせる。


だが、俺は信じてる。俺と一緒にフレンチトースト屋さんになりたいと言ったキャロちゃんの言葉を!


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