第33話 狩る者と狩られる者
「このボイスレコーダーが会話記録に成功したものです。ただ、仕掛けた50個のうち2つが回収できませんでした。賊に見つかったか、ゴブリンか何かが持ち去った可能性が・・・。」
「構わない。敵に見つかる可能性も想定はしていた。それより内容を確認しよう。」
偵察部隊から返却されたボイスレコーダーの再生が始まった。
早送り機能がついているレコーダーなので、最初の方は飛ばしていく。再生開始から3時間ほど経過したところで、足音と微かな会話らしい音声が聞こえ始めた。
「確かに何か聞こえるが、内容は聞き取れないぞ?」
「いえ、もう少し先です。今はこの近くを先遣隊が通過しているところだと思われます。もうすぐ賊の首魁が丁度この真下で野営を始めます。」
「ほう。良い所に設置したな。」
「設置場所はほとんどが木の枝ですね。枝葉で隠しやすいので。腰を落ち着けるのによさそうな場所の上を狙って仕掛けました。」
今回の作戦の一番の功労賞はこれを仕掛けた奴だな。街に戻ったら特別報酬を用意しないといけないな。
再生を続けていると聞き取れる音声が入りだした。
『着いたぞ。そこに川がある。』
『よし、いつものように野営班と警戒班に分かれろ。』
『了解。』
賊の幹部と思われる奴が指示を出しているのが聞き取れた。警戒している為だろう。口数は少ないし、声を抑えるように会話している。
風がないお陰で雑音も少なく、ちゃんと録音できている。性能の良いレコーダーを選んだのも良かったのかもしれない。屋外でこれが記録できたのは運が良かったな。
その後も指示を出す声は時々聞こえたが、会話らしい会話はない。おそらく最低限の指示だけで動けるまでに統制がとれているのだろう。無駄口を叩いている奴がいないところからも練度の高さが伺える。以前、俺たちが襲われた時は、賊の大半がゴロツキの寄せ集めのような状態だったはずだ。今はゴロツキ共もヘマをするような奴は残っていないか。これは手強いかもしれないな。
静かな状況のまま、レコーダーの再生は進んでいく。
そして、野営準備が整った頃だろうか。ようやく会話がちらほら聞こえ始めた。どうやら食事を始めたらしい。と、ここで重要そうなワードが飛び出した。
『ボス。エドラーが戻ったぞ。ロベルファミリーはリュド村を指定してきた。他の2組も賛同していて既に現地へ移動中だそうだ。』
『ああ。それで問題ない。一番離れた村を選ぶのは定石だしな。地形も悪くない。合流しても身を隠せそうな場所もあるからな。』
『分かった。進路はこのまま北上だな。』
『エドラーは休ませろ。次の連絡員は別の奴を送れ。』
『了解。次の連絡はラマンを向かわせる。』
さっきまでとは違って音声がすごくクリアだ。本当にボスのすぐ近くにレコーダーは仕掛けられているようだ。
「ロベルファミリーというのはルーテラスの街で敵対組織だった組でやす。『他の2組も』と言ってるんで、消えた組織の数と一致しやす。」
「敵対組織3組+盗賊が結託したわけか。」
「積極的に連絡員を送り出してる様子なんで、盗賊側から接触をとった可能性が高そうでやす。どんな言葉で唆したのやら。」
「敵の戦力はどんな感じだ?」
「盗賊は最新の情報では47名が確認されていやす。外出している連絡員もいるみたいなんで、実際は50人くらいでしょう。敵対組織3組は何れも戦闘員20人前後くらいの規模の小さな組でやす。」
「合計すると敵勢力は110人くらいか。討伐できそうか?」
「50人の盗賊討伐のつもりで計画してたんで人手が足りやせん。賊の合流地点に先回りしても包囲しきれないんで、撃ち漏らしがでやす。街から増援を呼ぶのも間に合わないでやす。嗚呼、またボスにケツを蹴られやす・・・。」
マルダシリのケツも心配だが、このまま作戦を続行するとうちの組にも被害が出てしまう。下手したら返り討ちに遭う可能性もある。ボスは被害ゼロでスマートに成果を挙げることを望んでいるのだ。困難な作戦であってはならない。
「とりあえずエルメラに相談するか。お前のケツが蹴られないようにフォローはしてやるから。ほら行くぞ。」
というわけで、今日も男爵とワイン談義で盛り上がっているエルメラの元へとやって来た。
「大したことではない。敵対組織もまとめて一網打尽にできるなら、むしろ都合が良い。消えた連中を探す手間が省けたな。」
報告を聞いたエルメラは特に気にした様子もなく、あっさりとしたものだった。反面、男爵は顔を青くしている。
「リュド村が襲われるのは困ります。あそこは一番品質が良いブドウが穫れる品評会用の区画なんです。」
「む。それは村にも畑にも被害が出ないようにせねばならんな。アキラ、これをお前に預けよう。」
エルメラはマジックバッグから見たことのない大型の魔導銃らしきものを取り出した。
「こいつはまさか・・・」
「そうだ。あのフィッツヴァルツが使っていた魔導銃を改良したものだ。あの後、辺境伯軍に押収された物を借りて解析したのだ。まだ試作品だがちゃんと使えるぞ。銘は・・・そうだな、『アニエス』にしよう。」
今、適当に名付けられた『アニエス』はガトリング砲のようだ。ただし、フィッツヴァルツが使っていたものより小さく、大柄な人なら手に持って扱えそうなサイズになっている。ミニガンみたいだ。
「これをぶっ放しながら俺が突撃すればいいわけか。」
「敵が110人ならアキラが60人始末すれば、残りは当初の計画通り50人だ。問題ないだろう?マルダシリ、これで再計画を立案しろ。無論、被害は出すなよ?組員にも畑にも村にもだ。賊も一人も取り逃がすなよ。」
「りょ、了解しやした。」
「男爵は気にせずワイン開発に専念してくれ。」
「わ、分かりました。どのみち私にはできることはありませんからな。」
「そんなことはないぞ。醸造所が貴方の戦場なのだ。我々とは戦う場所が違うというだけの話だ。」
「なるほど。醸造所が戦場・・・。そうですな、私は私の戦いを続けましょう。」
弱気な男爵はもうエルメラに手玉にとられているようだ。私兵を貸してもらえることになっているから、男爵も何もしていないわけではないのだが。
一先ず、賊討伐の勝機が見えたので、マルダシリと作戦を練り直すことになった。
「リュド村の周辺地図を見る限り、100人以上が身を隠せそうな場所はこの丘の東側の森。ここしかないでやす。」
「そこが敵の合流地点か。」
「ええ、目的地が分かってるんで、敵対組織の連中もすぐに発見できると思いやす。」
「敵が全員合流したら可能な限り包囲すると。」
「スピード勝負でやす。敵は合流したら簡単な打ち合わせをして、すぐにリュド村を攻めるはずでやす。散らばられるとこちらの負けでやす。」
「作戦開始のタイミングが肝だな。」
「作戦開始の合図は代行のアニエスの発砲音でやす。包囲網が完成したらすぐに始めてくだせえ。」
「分かった。後は男爵軍の役割だな。俺の防弾シールドを持たせて壁になってもらうか。その後ろからうちの組員が銃撃。少しずつ包囲網を狭めていく。」
こうして速やかに作戦の立案が行われ、すぐに現地へ急行することになった。
キャロちゃんとフーちゃんは男爵邸でお留守番だ。キャロちゃんは下唇をキュッと噛んで、悔しそうな顔をしていた。エルメラについて行きたかったのだろう。こういう時は彼女は駄々をこねることはない。これまでの旅の経験から、自分がついて行くと足手まといになると理解しているのだ。賢い子だ。
「今回の相手は小物だからな。戦闘はすぐに終わる。ついて来てもつまらんぞ。キャロ、お前は将来もっと大物を狩るんだ。そうだな、ドラゴンでも狩って私に見せてくれ。」
エルメラに頭を撫でられて、キャロちゃんはちょっと嬉しそうな顔になった。
「フーリア。キャロの面倒を見てやってくれ。多分、無理してトレーニングしようとするから。何かあったら男爵に言うんだぞ?」
「はい。任せてください。ボスもご武運を。」
キャロちゃんとフーちゃんに見送られて俺たちは男爵邸を後にした。
「ようやく我々も狩る側になったのだな。やっと実感が沸いてきたぞ。」
「ん?ああ、そう言われてみれば、今まではずっと逃走生活だったもんな。俺たちは狩られる側だったんだな。」
「敵も今までは狩る側だったが、今回は狩られる側になった。立場が逆転すると気分が良いものだな。」
「だが、油断はできないだろう?敵は数も多いし。」
「む。私の改良したアニエスを疑っているのか?帝国製のでかいだけの玩具と一緒にするなよ?」
「いや、エルメラの腕は信じてるさ。戦場では何が起こるか分からんって話だよ。」
「ふむ。まあ、使えばすぐに分かる。結果はもう見えてるも同然だ。それより、小物の集団の賊とは言え、討伐後が楽しみだな。」
「ん?懸賞金でも懸かってるのか?」
「阿呆か。そんな小銭など興味ない。興味があるのは貴族界の構図だ。下級貴族のシュトロハイム男爵が賊を討伐したとなれば、取り逃がしたグレイネス伯爵は完全に立場がなくなる。面白いことになるぞ。ワインだけで成り上がった男爵などとは誰も言わなくなるだろう。」
「男爵が注目を集める前にパイプを繋いでおくのも狙いか。」
「その通りだ。男爵に加勢して恩を売る。と言っても、男爵の持つ私兵など元から当てにはしていないがな。形だけ出兵させて手柄をくれてやるのだ。」
男爵の兵にも普通に活躍してもらうつもりなのだが。包囲網を築くには壁役は必須だからな。まあ、エルメラはとても機嫌が良いようだから、余計なことは言わないでおこうか。
リュド村へは徒歩で半日程で到着した。敵勢力の到着まで後2日以上はかかるらしい。男爵軍の兵隊長さんが村長に事情を説明して、俺たち幹部は村に泊まることになった。他の戦闘員は目立たないように少人数ずつ行動していて、現在は戦場となる予定の森の中だ。素早く敵を包囲できる位置を確保して隠れ潜んでもらっている。数日間も、森の中に隠れるのは大変だろうから、美味しいレトルト食品やカロリーバーを色々持たせておいた。食事だけでも楽しんでほしいと思う。
そして、村に到着してから3日目の夕方。連絡員が敵の到着が近いことを知らせに来た。
いよいよ、決戦の時がやってきたようだ。エルメラの自信作、秘密兵器アニエスのお披露目といこうか。




