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第30話 ボスの仕事

誤字報告ありがとうございます!そして今更ですが、ブックマーク、評価、いいね!をくださった方々も、ありがとうございます。励みになります。とても筆が遅いですが、完結目指して頑張ります!

新居での生活が始まって10日程経った。


空き物件のミュゼルファミリー支部への改装も順調に進んでおり、既にボス用の執務室は完成している。だが、この部屋にボスが来ることは滅多にない。ボスはずっと作業場に引き籠もって、ファミリーの戦力増強のための魔導銃を作っているからだ。

ボスの席に座るのはいつも俺だ。その隣でキャロちゃんが読み書きの勉強中だ。

俺は今日もデスクの上に飾るキャロちゃんの写真を選ぶのに忙しい。一番よく見える場所にはやっぱり一番お気に入りの笑顔の写真かな。既にデスクの上には、ショッピングサイトで購入したお洒落な写真立てがたくさん並んでいる。壁にも飾れるフォトフレームも使えばもっと飾れそうだな。もうほぼ俺の執務室だし、勝手に飾ってもいいよね。

新たな方針が見えてきたところでマルダシリが入室してきた。


「代行、目を通して欲しい書類がありやす。」


俺は『代行』と呼ばれている。俺の肩書が『ボス代行』なのだ。ボスが出勤しないので、俺がボスの仕事をしなければならないためにこのようなことになった。と言ってもボスの仕事はそんなにない。たまにマルダシリが持ってくる書類に目を通したり、判子を押すだけだ。


「ふーむ。また金貸しか。」

「この街は次から次に人が訪れやすんで、先立つ物を求める声は多いでやす。」

「これ、儲かるのか?」

「当たればでかいでやす。金を貸した相手が起こした事業が成功すれば、大きな利益になりやす。特に大きな事業になった場合は、そのままうちの組が買収することもありやす。」

「なるほど。そうやってミュゼルファミリーは規模を拡大してきたのか。投資ファンドみたいなものか。」

「ええ。うちは経済力で成り上がった組と言っても過言ではありやせん。」

「しかしこいつは駄目だな。飯屋なんていくらでもあるだろ。メニューもつまらんし、将来性が期待できない。却下だ。」

「そう言うと思っていやした。次はこいつでやす。」

「次は風呂屋?銭湯か。競合店はどれくらいある?」

「こいつが出店する予定の場所の近辺にはありやせん。ちなみにこの近所でやす。」

「ご近所さんか。この辺りは客商売するには立地があんまり良くないんだよな。だが、銭湯はあってもいいな。よし、こいつには条件付きで出資しよう。」

「条件とは?」

「正確には出資ではなく雇用だな。経営権を寄越せと言え。こいつには店長をやってもらう。その代わり、うちの組員を全員通わせて宣伝させる。俺のシャンプーリンスとボディーソープも特別に卸してやろう。」

「最初から買収してしまうわけでやすか。失敗したら赤字になりやすぜ?」

「赤字でも構わん。必要経費だ。この銭湯でうちの組員は全員身奇麗な状態を保たせろ。汚い奴はうちの組にはいらん。ほれ、これがシャンプーリンスとボディーソープだ。サンプルとして持っていけ。」

「了解しやした。最後にもう一件。先日の戦勝会を行った多目的施設でやすが、一階を酒場に改装しようかと思いやす。広すぎて全く利用されることがなかったんで、持て余していたんでやすが、先日の戦勝会が良い噂になって集客できそうで。テラスでバーベキューしながら酒も楽しめるってコンセプトでいこうかと。ちなみにマルセルの案でやす。」

「それは良い考えだな。バーベキューコンロは寄付したわけだし、ぜひ有効的に使ってくれ。」

「それで先日の大きなボトルに入ったウイスキーだけでいいんで、卸してもらえやせんか?多分、先日の酒を期待して来る奴は絶対にいるんで。可能ならあのチーズも・・・」

「ウイスキーだけならいいぞ。チーズは・・・あれ値段が結構高かったからなあ。需要があるのか?」

「ええ。評判良かったでやす。バンドーとイナムラが、あのチーズを刀でぶった切って盛り上がりやした。あと、バーベキューの火で炙ると特に美味いでやす。」


そうか。あの時会場から聞こえたのは、チーズ入刀の歓声だったのか。そういえば、会場からはチーズタワーが消えていたな。飯も酒も綺麗に消えて無くなっていた。客が全部持ち帰ったと聞いていたが、あの強面のマフィア連中、みんなタッパー持参で来てたのかな。


「うーん、分かった。チーズも卸そう。だが、それなりの値段設定にしておいてくれ。」

「ありがとうございやす。いやあ、看板メニューの確保ができやした。」


マルダシリが満足そうにしていると、第二の幹部マルセルもやって来た。


「おーい、代行。来客がきたぞ。2組来たから順番に通すぞ。」


ボスが代わったことで、組の関係者が時々挨拶に来る。組が経営している事業主の連中がほとんどだ。今入ってきて緊張気味に挨拶を述べているのも商会の会長らしい。大店の魔道具店を営んでいるそうだ。ボスが魔道具師であることからも、そのうち何か世話になることがあるかもしれない、と適当に挨拶を返しておいた。


2組目に入ってきた来客はいつもと違った。キャロちゃんより少し背が高いくらいの少女とメイドのような格好をしたおばちゃんだった。


「ああ、忘れていやした。この子、前のボスの娘でやす。」


マルダシリが今思い出したという感じで紹介してくれた。何でも自爆した前のボスは、自分の娘を遠ざけていたらしい。自身の近くで育てるのは危険と判断してなのか、今となってはその真意は分からない。結果的にはこの子は自爆に巻き込まれずに生き残ることができたわけだ。

しかし、今日ここに来たのはこの子が用があったわけではなかった。用件があったのは、この子の世話をするように指示を受けていたというおばちゃんの方だった。前のボスが死んだと聞いたが、このまま世話を続けていていいのか、という今後の雇用に関する質問だった。

結局、マルダシリと相談した結果、おばちゃんはさっき話していたもうすぐオープンする酒場で、給仕として継続雇用することになった。おばちゃんは職を失わずに済んだことで、ほっとした様子で退出された。


「で、この子どうするんで?」

「母親はいないのか?親戚とか。」

「俺は知りやせん。前のボスは人前に現れることが全くない謎の多い人物だったんで。5年位前に幹部の者がボスの娘だと言って連れてきたんでやす。人を雇って育てるようにと。以降、育児の者が変わる時の雇用手続きしか関わることがなかったんで、忘れていやした。ちなみにさっきの女は先月雇ったばかりの者でやす。」

「うーむ。放り出すわけにもいかないし、育てるしかないか。ひょっとしたら親族の人が現れるかもしれないし。」


キャロちゃんがこいつには勝てると思ったのか、顔を覗き込んでガンを飛ばしている。きっとエルメラの真似をしているつもりなのだろう。怖がってるからやめてあげて。


「君の名前は?」

「フーロレイフシロチテリアです・・・。」

「ん?フー・・・?」

「フーロレイフシロチテリアです。」


舌噛みそうな名前だな。何て名前を子供に付けるんだ。何かの魔法の呪文かと思ってちょっと警戒してしまったじゃないか。この子、よく自分の名前を覚えれたな。


「ああ、フーロレf・・・フーちゃんだね。色々あって俺が君を育てることになったからよろしくね。俺はアキラと呼んでくれ。ほら、キャロちゃんも挨拶して。」

「ん。キャロル。ふーちゃん舎弟にする。」


キャロちゃんがまた変な言葉を覚えたようだ。組員の誰かに吹き込まれたのか。もうこの教育環境はどうにもならんな。


キャロちゃんが俺のマジックバッグから調理器具を取り出し始めた。得意のフレンチトーストを作るようだ。まあ、好きにさせておくか。キャロちゃんにとっても、同年代の子と接する機会が得られたのは悪いことではないだろう。これも冒険者ギルドに通う前に必要な良い経験かもしれない。

自慢のフレンチトーストが焼けるとイチゴをせがまれた。今日はフルーツミックスの缶詰もつけてあげよう。二人で飾り付けを楽しむといい。フーちゃんは遠慮がちな様子だったが、キャロちゃん特製のフレンチトーストを口にしてからは笑顔が見えた。キャロちゃんは得意げな顔でフーちゃんの頭を撫でている。


5年位前から預けられたということだが、一体どんな生活を送ってきたのだろうか。何か聞きにくいな。・・・聞く必要はないか。キャロちゃんと楽しそうにしているし、これから充実した人生を送ってもらえば良いだけだ。過去の詮索はしない、裏の住人のルールだ。懸念点があるとすれば、エルメラの許可が下りるかどうかだな。まあ、大丈夫だろう。あいつは何だかんで子供には甘いからな。



その日の夕方、食堂でエルメラにフーちゃんを紹介した。


「そうか、前任者に娘がいたのか。私はエルメラだ。この組に関わった以上、お前を放り出すようなことをするつもりはない。名前は?」

「フーロレイフシロチテリアです。お世話になります。」

「ふむ。良い名前だ。呼びやすいようにフーリアと呼ぼうか。」


まさか、今の名前を一回聞いただけで聞き取れたというのか!?流石、組を束ねる真のボスは俺とは出来が違うな。迷いなく受け入れる姿勢も器の大きさを感じる。


「しっかりした子だな。ちゃんと教育を受けていたのか。両親のことは覚えているか?」

「分からないです。小さい頃から色んな人にお世話になったので、どの人が両親なのか・・・」

「私もお前の親のことは顔も名前も知らない。だが、結果だけ見ればお前の父親はその命と引き換えに、この組と娘であるお前を守ったのだ。立派な男だったと思っている。それだけ覚えておけ。」

「はい。」

「うむ。キャロとは歳も近そうだし、仲良くやってくれ。何か困ったことがあれば言うのだぞ。よし、アキラ。飯にしようか。」

「随分、あっさり受け入れるんだな。キャロちゃんを拾っておいて今更だが、子供を育てる責任は重いぞ?」

「ん?面倒を見るのはアキラだろう?私には大して重荷にならんからな。」


エルメラはそのセリフをすぐに反省することになった。

その夜。ベッドの上でエルメラは寝苦しそうにしていた。


「せ、狭い・・・。」

「明日にはもう一つベッドを組み立てるから、今日だけ我慢してくれ。」


今日の所はエルメラにはコットで寝てもらおうと思ったのだが、キャロちゃんが3人で一緒に寝ると駄々をこねたのだ。これにはエルメラも折れた。キャロちゃんを真ん中にして3人で川の字になって寝ている。ダブルベッドとはいえ、3人だと結構ぎりぎりだ。明日にはシングルベッドを一つ買い足して、くっつけて使おうと考えている。


「一人育てるも二人育てるも大して変わらんと思ったが、やれやれ・・・」


エルメラの溜め息を他所に、キャロちゃんとフーちゃんはぐっすり眠っていた。



翌日からは2人を連れてボス用執務室に出勤することになった。

どうやらフーちゃんは既に読み書きは完璧のようだ。計算も得意なようなので、キャロちゃんの勉強を見てもらっている。

俺は部屋に飾る写真選びの作業を続けることにした。フーちゃんの写真も撮ってあげないといけないから、しばらく仕事が忙しくなりそうだな。


「そういえば3人で撮った写真はこの一枚しかないな。」


王都の写真屋で撮ったやつだ。今度、4人で撮るか。マルダシリにカメラマンをさせよう。

一番よく見える場所に飾る写真が決まったな。もうしばらくこの場所は空けておくとしよう。


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