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第3話 魔道具師との邂逅

酒場には早朝の時とは違い、数組の客が入っていた。バッケスもいるな。こいつ一日中酒場にいるのかな。

余所者の俺が入ってきたからだろう。注目を集めるが無視してカウンターのローク店主の元へ向かう。


「件の魔道具師からの返事だ。会っても良い、とのことだ。ただし、場所はこの酒場を指定している。奥の個室に既に来ているが会うか?」

「ああ、もちろん。」

「念を押して言っておくがトラブルは起こすなよ?この酒場を指定された意味を分かっているな?」

「ローブルファミリーの立会の元で交渉ってことだよな?大丈夫だ。問題を起こす気はない。」

「バッケス!こいつを奥に案内しろ!」


バッケスに連れられて奥の部屋へ向かう。


「この部屋にいる。俺はここで待機しているが、何か問題が発生したと思ったらすぐに部屋に入るからな。ここだけの話だが、うちのボスはこの魔道具師の作品にご執心なんだ。アキラ、お前には今朝世話になったが、手を出せば・・・」

「分かっている。問題は起こさない。」

「よし、じゃあ入れ。」


扉をノックすると、「入れ。」と短い返事が返ってきた。

部屋の中にはゴツいゴーグルを身に着けて、ショットガンのような物をこちらに向けて座っている女がいた。


「そこで止まれ。その荷物は何だ?バッケス中身を確かめてくれ。」

「はいよ。人使いの荒いお客様だ・・・。」


バッケスが愚痴を言いながら俺のカバンを覗いてくる。


「中身は本と紙の束だけだ。危険そうな物は入ってない。」

「分かった。部屋から出てくれ。あんたが依頼主のアキラだな?座ってくれ。ただし、妙な真似をしたら撃つ。」


言われた通りに座る。しかし、随分と警戒されてるな。


「改めて俺はアキラだ。まずは対面での取引に応じてくれて礼を言う。」

「前置きはいい。仕事の内容は?」

「まずは設計図の一部を3枚見てほしい。その上でその品を修理・メンテナンスが可能かどうかを聞きたい。」


俺はカバンから用意していた3枚の設計図を取り出す。


「まず、1枚目がこれだ。」


俺の足の部分の設計図を差し出す。


「義足か?材質はアルメディロ鉄鋼?随分贅沢な足だな。問題ない。これくらいは扱える。そもそも魔道具ではないしな。」

「では2枚目の設計図がこれだ。」


次は俺の心臓部分と言ってもいい。取り込んだ魔石をエネルギーに変換させる機構・・・だと思う。俺には仕組みが全く理解できなかった。


「これも随分金をかけてるな。だが、ただの魔石の魔力変換器だな。材質が特殊なのと比較的サイズがでかい以外は珍しくもないな。何か大型の魔道具を動かすためのものだろう。これも取り扱うことは可能だ。」

「では3枚目の図面だ。これも扱えるなら仕事を依頼したい。」


これは設計図というより図面だ。俺の頭の中に情報が書き込まれたプレートが埋め込まれてるらしい。そのプレートの図面だ。ぱっと見ただけでは何に使う物なのか分からないはずだ。


「・・・これは完全に外法の類のものだぞ?」

「それが何なのか分かるのか?」

「書き込まれてるのは大部分が人間の魂に関する情報だ。これは錬金術の分野の中でも禁忌とされている。これと似たものを文献で見たことがあるが、それは禁書とされていて国が厳重に保管している。」

「その禁書の内容とは?」

「昔、とある貴族が不老不死を求めたらしい。魂を別の容れ物に移し替えればいいのではないか?という思想の元、人間から魂を引き剥がして作り物の体に入れようとした。しかし、魂は定着せず失敗に終わった。という内容だったな。」

「その魂の定着の成功例があるとして、破損した際の修理・継続的なメンテナンスは可能か?」

「この3枚目の図面のものは修理は無理だろう。破損したら魂が離れて戻ってくることはないと思う。」


つまり俺は頭に大きなダメージを負うのは危険ということか。だが、まあいい。それ以外の体のパーツは修理できるみたいだしな。これで追手と争いになって、多少暴れて壊れたとしても修理の目処がたった!


「それと継続的なメンテナンスはどのみち無理だ。私は逃亡中の身だからな。潜伏先は定期的に変わる。近々、この街も去るつもりだ。」


なんてこった。折角、見つけた人材が・・・。いや、待てよ。俺も逃亡中なのだから同行すればいいんじゃないか?


「あの・・・俺も連れて行って頂けないでしょうか?」


小声でボソッとお願いしてみた。2メートル近い巨体を小さく屈めて懸命に上目遣いをしてみる。土下座でもして頼み込むべきか。もう何でもしちゃうよ。本当に困ってるからね。


「・・・そのセリフはお前自身が成功事例ということか?1枚目と2枚目の設計図はつまり魔導ゴーレムなのか?そのフードを外してくれ。」


俺はローブのフードを脱いだ。ついでに手袋も片方外した。金属の頭と手が剥き出しになる。


「驚いたな。不老不死を実現してる奴がいたのか・・・。」

「昨夜、この街の研究所で目が覚めてこんな体になっていたんだ。研究所を逃げ出したまでは良かったんだが、この世界の情報が不足していて困っている。助けてくれないか?」

「・・・私は半年程前から逃亡生活を続けている。マフィアの手を借りて潜伏し続けて何とか逃げ切っているといった現状だ。目立つ荷物を抱えての逃亡は危険度が増す。」

「やっぱり目立つよな、この体。あんたについていくのは無理か。」

「だが、魂の定着素体というのは興味深い。欲しいな。」

「っ!連れて行ってくれるのか!?」

「アキラと言ったな?何ができる?」

「ん?そうだな・・・。体は頑丈だから盾になることくらいはできると思う。あと、睡眠も不要だから不眠不休で周辺の警戒も」

「そうじゃない。スキルだ。スキルで何ができる?」

「は?スキル?ああ、生前は美容師をやっていたから、髪を整えたりメイクしたりといったスキルなら」

「隠さなくていい。私のこのゴーグルは教会のスキル鑑定の魔道具と同じ効果がある。対象の魂に刻まれたスキルを把握できる。アキラのその『ショッピングサイト』というスキルで何ができるのかを聞いているんだ。」

「ショッピングサイト?」


突然、目の前に大きな画面が現れた。どこかのネット通販みたいな画面だ。


「わっ!なんか出たぞ。」

「それがアキラのスキルか。何だ?初めて使ったのか?」

「ああ、生前よく利用していたネット通販サイトの画面によく似ているが。あんたにも見えるのか?」

「ああ、見える。何ができるのか、使って見せてくれ。スキルの名前からして何かを購入できるんだろう?」


試しに『ドリンク・お酒』のカテゴリーから、生前よく飲んでいたレモンサワーを買い物かごへ入れてみた。ここ、酒場だからね。何となくお酒を選んでしまった。値段は魔力120となっている。購入画面に進んでみると残高魔力84247となっている。どうやら金銭ではなく、魔力というものを対価に商品を購入するようだ。と、思ったら84246に減った。眺めていると残高魔力の数字が減り続けている。


「おい、残高が何もしていないのにどんどん減っていくのはどういうことだ?」

「おそらく、アキラの保有魔力を表しているのだろう。普通の人間なら魔力は自然回復するものだが、アキラの場合は魔力が燃料になっているからな。」

「そういうことか。ということは買い物すればするほど俺は燃料を失っていくのか。ただでさえ燃費が悪そうな体なのに。」

「あの2枚目の設計図通りなら魔石を取り込めば残高は増えるのだろう?魔石は提供するからスキルを使ってみてくれ。」


そう言ってピンポン玉サイズの魔石を差し出してきた。貰えるものは貰っておこう。早速、魔石を取り込んでみると魔力残高が5000程増えた。間違いなく俺のエネルギー残量を表しているようだ。今までは体感で残量はこれくらいかな?くらいにしか分からなかったから、数値化されただけでもこのスキルの恩恵は大きいな。

貰った魔石が魔力5000だったので、魔力5000分くらいになるように適当にパンやベーコン、野菜類などの食料品も買い物かごに入れていく。

そして、購入画面に進み、確定ボタンを押すと残高魔力が5000程減った。体感でもエネルギー残量が少し抜け落ちた感覚がある。


「・・・おい!魔力減っただけで何も起きないぞ!新手の詐欺か!」

「本来はこの後どうなるはずだったんだ?」

「購入した商品は後日届く。」

「じゃあ、そのうち届くんじゃないのか?遅延タイプのスキルか。珍しいがそういうスキルはあるぞ。」


そういえばトップ画面に『初めての方へ』って項目があったわ。

ふむふむ、成る程。買い物の流れの説明ばっちり書いてある。どうやら購入した商品は翌日の0時以降に受け取れるようだ。すぐに受け取りたい時は『お急ぎ便』で注文するといいらしい。割増料金がかかるようだが。画面の右上に時刻の表示があった。現在、17時20分と表示されている。さっき注文したのはしばらく受け取れないわけだ。


ひとまず、もう一度購入画面に戻り、おっさんの顔のラベルで有名なモルトウイスキー700ml入り:お値段748魔力を『お急ぎ便』で注文してみた。どうやらお急ぎ便は価格が倍のようだ。魔力1496が減った。注文履歴を見てみると受取可能ボタンが点灯している。受け取りを押すと目の前に注文したウイスキー瓶が出現した。


「おっ。出てきた。開けてみるか。」

「魔力を対価に物質を創造するスキルなのか。ふむ。素晴らしい。」


机の上のグラスにウイスキーを少し注いで差し出す。


「これは飲めるのか?」

「ああ、そこそこ強い酒だから水で割って飲んでくれ。」

「いい香りだ。折角ならストレートで飲みたい。・・・美味いな、いい酒だ。」


あれをストレートで飲めるのか。酒豪なのかな、この人。


「ああ、スキルはもう解除していいぞ。フードも被っておけ。・・・よし、同行を許可しよう。」

「いいのか?いくらスキルが有能でも絶対に俺は目立つぞ?追手も増えることになるし。」

「ああ、移動は難しくなる。そこはマフィア連中に何とかしてもらうしかない。おい、バッケス!入ってきてくれ!」


部屋の外で待機していたバッケスが扉を開けて入ってきた。


「交渉は終わったか?」

「ああ、終わった。結論としてはアキラは私に同行することになった。次の潜伏先までの案内を二人分に変更してくれ。」

「料金は跳ね上がるぞ?通行料が倍になるだけじゃねえ。こいつは図体がでかいから馬車に隠すことはできねえ。竜車が必要になるだろう。」

「ああ、見積もりを後日連絡してくれ。支払いは先日と同じように仕事を請け負うことで払う。」

「分かったよ。あんたはボスのお気に入りだしな。多少は割引もあるだろう。掛け合ってみる。」

「それと今日からこの街で不審な大柄の人間を探している連中がいないか、情報を探ってほしい。」

「大柄の人間を聞き込みで探してる連中ならいるぞ。手配書は出回ってねえが。」

「その大柄の人間がアキラのことだ。禁忌に手を出した連中だ。大っぴらに捜索はできないだろうが、連中の動きに注意してくれ。この街を脱出する時の障害にもなり得る。これはアキラからの差し入れだ。ボスによろしく。」


魔道具師の女はさっき購入したウイスキーの残りをバッケスに渡して、こちらを振り向いた。


「おい、いつまで座ってるんだ。私についてくるんだろう?」

「ああ、行くよ。ところで俺はまだ、あんたの名前も聞いていないんだが?」

「エルメラだ。元・王宮錬金術師のエルメラ=スノウベルクだ。」


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