第29話 マイホーム
戦勝会が終わって一夜が明けた。今日は念願のマイホームを購入するために本部に来ている。
マルダシリが物件の資料を持ってボス部屋に入ってきた。
「お待たせしやした。ボスにお勧めの物件は2件でやす。選んだ基準は、隠れ住むのに適しているか、ボスの作業場があるか、快適に暮らせるか、こんなところでやす。」
「うむ、それで問題ないぞ。」
「まず、地図で場所を確認してくだせえ。この2箇所でやす。」
「俺はこっちの物件の方がいい。」
「迷いがないな。ちなみに理由は?」
「もう一つの方は冒険者ギルドから離れ過ぎてる。将来、キャロちゃんを通わせるんだろ?」
「確かにそうだな。こっちの物件の説明を頼む。」
「了解でやす。まず、この区画の図面を見てくだせえ。この中央の建物が住居になりやす。その周りは倉庫だとかの事業所用の建物でやす。なので、日当たりは悪いでやす。洗濯物は屋上に干してくだせえ。」
「それは問題ないが、どこから入るんだ?」
「周りの建物のどれかの中を通って入りやす。全部うちの組が所有する物件で、使っている物件もありやすが、うちの組の関係者でやす。遠慮なく中を通ってくだせえ。」
「なるほど。万が一の時の逃走経路にも使えるな。悪くない。」
「空いている倉庫がありやすんで、そこも使ってもらって構いやせん。作業場にしてもらってもいいと思いやす。」
「この区画の角の印の付いている建物は何だ?」
「ああ、それは気にしないでくだせえ。薬師の者が薬屋をするんだといって貸し出す予定だったでやす。リフォームが済んで営業が始まるかと思ったら、お縄について憲兵にしょっぴかれて行きやした。禁制の物を扱っていて、憲兵にマークされていた奴だったようで。」
「つまりここも空き物件なのか。」
「ええ。ボスが作られた物でも売るなら、そこも使ってもらって構いやせんぜ。リフォームされたばかりで綺麗なんでやすが、店をやるには立地が良くないんで借り手は現れんでしょう。」
「エルメラ、この物件も欲しい。」
「使わないと思うぞ?まあ、別に構わんが。」
結局、住居と倉庫、薬屋だった店舗の3つの物件を押さえておいた。
「周辺環境の説明もしておきやす。辿り着くまでに難所がありやして。」
何で街中に難所があるんだよ。
「ここでやす。道の上に土魔法で家を建てた馬鹿がいやして、一見すると行き止まりに見えやすが、建物をよじ登って通っていいことになっていやす。当然、馬車は通れやせんが。」
「そんな奴は退去させて家を取り壊せよ。領主は何をやってるんだ。」
「それが取り締まれなかったようで。何でも腕っぷしの強い変な爺さんで、憲兵を全員返り討ちにしたそうでやす。」
「抵抗するならただの犯罪者じゃないか。腕っぷしが強ければ何しても許されるのか?とんでもない街だな。」
「で、次の難所でやすが。」
「まだあるのか。一体どうなってるんだ、この街は。」
「急速に拡大した街なんで、こういう所は結構あるんでやす。納得してくだせえ。」
難所の説明はしばらく続いた。
しょっちゅう馬車が横転する急カーブやら、一時間置きに水位が上がって水に浸かる橋やら、悪ガキ共が屯する広場やら。近隣の住人はよくこんな所に住めるものだ。感心してしまったよ。マルダシリ曰く、早く慣れろと。
「しかしこれはキャロちゃんを一人では歩かせれないな。」
「歩けるように私が指導するから問題ない。むしろこの街が歩けるようになれば、どこでも暮らせるということだ。」
「それでもしばらくは護衛を付けないと。俺が手の空いてない時はうちの組の奴に護衛してもらうか。」
ひとまず住居は決まったので、マルダシリの案内で引っ越し先に向かうことになった。
魔導銃を構えて細心の注意を払い、数々の難所を乗り越えてマイホームに辿り着いた。
「まず、ここが薬屋だった店舗か。」
カウンターがあるだけで何もないな。店主は営業開始前にしょっぴかれたらしいから、これから準備するところだったのかもしれない。
「で、この奥を抜けるとマイホームに入れるわけだ。」
元々、隠れ住むために建てられた住居らしいので小さい建物だ。縦に細長い3階建になっている。
「小さい住居でやすが、魔道具フル完備のハイスペック仕様でやす。ちなみに入居者はボスが初めてでやす。ここを貸し出せる程の金を持った犯罪者の客がいなかったんで。」
「うむ。ようやく落ち着いた生活ができるな。では、早速だがアキラの出番だぞ。」
「ああ。マルダシリも手伝ってくれ。」
ショッピングサイトをフル活用して内装を整えるとしよう。家具類は既に3人で選んで購入済みだ。
一階はキッチンと水場のようだ。水場に浴槽を設置しておいた。お湯は魔道具を起動すると出てくるようだ。洗濯もここですることになるな。
二階のリビングにはソファとテーブルを設置。
三階は寝室だ。ここから屋上に出られるようになっている。
最後に寝室にベッドを組み立てて今日の作業は終了だ。ベッドはキャロちゃんが選んだダブルベッドだ。エルメラと一緒に寝たいらしい。珍しくキャロちゃんが駄々をこねたのだ。これにはエルメラも折れた。
「飯はどこで食べるつもりでやすか?」
「さっきの薬屋を食堂にしようと思ってるんだ。」
「なるほど。では、後はボスの作業場兼倉庫でやすね。隣の倉庫はファミリーの支部に改装しやすんで、必要な物があれば常駐する組員に伝えてくだせえ。」
「うむ。それは助かる。それと領主から巻き上げた魔石の採掘場だが、採掘した魔石はこの倉庫に運び込んでくれ。」
「了解しやした。」
「よし、素材が搬入されたらまずはファミリーの装備作製だな。」
「やっと手に入れた安全な場所だぞ?少し休んだらどうだ?作業場が整うまでキャロちゃんと遊んであげてくれ。」
適当にボードゲームやバドミントンのラケットセットなどを出しておいた。
「む?そう言われてみれば、私は追手から逃げ切ったということになるのか。ふむ、感慨深いな。」
「分かりやすぜ。逃げ切った時の達成感。ガッツポーズしたのを今でも覚えていやす。あの頃は俺も若かったでやす。」
マルダシリがうんうんと頷きながら昔を懐かしんでいる。こいつも逃亡者だったか。そういえば、元軍人だと言っていたな。
「今度、引っ越し祝いのホームパーティでもするか。マルダシリもマルセル連れて来いよ。」
「遠慮なくご馳走になりやす。マルセルも昨日は飲めなかったと言ってたんで喜ぶと思いやす。」
「またパーティか。だが、昨日の宴会は来客が多くて落ち着いて飲めなかったからな。飲み直すには悪くないな。」
「マフィアのボスは毎日パーティするもんじゃないのか?そんなイメージがあるんだが。」
「それは偏見だと思いやすぜ・・・。」
さて、キャロちゃんの相手はエルメラに任せて、俺は今日の晩飯の準備をするか。
今日のメニューはチーズタッカルビだ。辛いとキャロちゃんが食べれないかもしれないので、焼肉のタレで作る辛くないチーズタッカルビだ。
鶏もも肉をタレに漬けてごま油で焼いていく。野菜とタレを投入して蒸し焼きにして、フライパンの中央を空けるように具材を両サイドに寄せる。間にチーズを大量に投入して、エルメラが食べる側に豆板醤を混ぜておく。これで大人も子供も美味しく食べれるチーズタッカルビの完成だ。
料理を元薬屋の店舗カウンターに並べていく。
「この店舗は殺風景だな。」
「椅子しか設置してないからな。でも確かに3人で使うにはちょっと広すぎるな。組員用の食堂にして昼飯でも用意してやるか。」
今は元々あったカウンターと椅子しかない状態だ。店舗としては小さい方ではあるが、隣でキャロちゃんが子供用のパンチングエアバッグを殴れるくらいのスペースはある。
身体強化も使っているのか、なかなか強烈なパンチを繰り出している。倒れたエアバッグに更に追撃を仕掛けようとするも、起き上がってきたエアバッグにビックリして、今度はキャロちゃんがひっくり返っている。それからしばらくは顔を真っ赤にしてエアバッグと戦っていた。
「そういえば、さっきのゲームの中に箱状の乗り物があっただろう?あれは手に入るか?」
「ん?ああ、バスのことか。一般的な車なら買えるが、燃料が売ってないから動かせないぞ。」
渡したボードゲームの中に、バスに人を乗せたり降ろしたりしながら進む双六みたいなのがあったな。この世界の人にはバスは分からんか。キャロちゃんが計算を覚えるのに使えるかと思ったんだが。
「動かなくてもいいから、一つ買っておいて倉庫に置いといてくれ。」
「おっ。分解するのか?いよいよこの世界にも乗り物の魔道具が誕生するのか。いやあ、ずっと不思議だったんだよ。何で乗り物が動物頼りなのだろうかと。」
この世界の技術の進歩は歪だ。
武器は魔導銃という優れた物があるのに、乗り物は馬車が主流。魔道具を応用して乗り物を作ろうと考えた人はいないのだろうかとずっと疑問に思っていた。
「大型の魔道具は燃費が悪くなるから、あまり開発されていないのだ。だが、その問題を解決できそうでな。アキラに搭載するつもりで研究しているパーツが流用できそうなのだ。」
「俺のパーツ?」
「ああ、楽しみにしておけ。まだ試作段階だが手応えを感じている。これが完成したら、この世界の魔道具業界は大きく変革するぞ。」
何だか分からんが、自信がありそうなので期待して待っておこうか。しかし、俺のパーツがこの世界を変えるのか。全く想像できんな。
ひとまず、中古の軽自動車がお値段たったの1000魔力で出品されていたので購入しておいた。
「キャロちゃん、ごはんの準備できたよ。」
エアバッグに馬乗りになってボコボコに殴っているキャロちゃんを抱っこして椅子に座らせた。大好きなチーズが美味しそうに溶けているのを見ると、エアバッグへの恨みも晴れたようだ。機嫌を良くして食事をし始めた。
今日からここで新しい生活が始まる。キャロちゃんがいつまでこの家にいるのか分からないが、表の街で暮らせるように育ててあげなくては。




